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鉄道車両や航空機のメンテ、生産性向上へ欠かせない“予知”

将来の方式として注目集める「CBM」
鉄道車両や航空機のメンテ、生産性向上へ欠かせない“予知”

JR東日本は新型通勤車両「E235系」で車両・地上設備の状態基準保全に取り組む

 鉄道車両や船舶、航空機における将来の保全方式として状態基準保全(CBM)が注目を集めている。各種機器に取り付けたセンサー類や記録・通信装置を使って稼働状態を監視し、故障の予兆を見つけて進行を管理しながら機器の寿命を予測する。安全に影響がない状態で使用を継続しつつ、適切なタイミングで修理や交換の計画を立案、実行する。作業効率や人員、コストを最適化するメンテナンス手法として期待は大きい。

 現在は故障が発生してから修理する事後保全(BM)と、定期点検で時間や距離に応じて部品を交換する時間基準保全(TBM)が主流。TBMは、設計条件や稼働実績などを元に、健全性を保てる期間として、あらかじめ機器ごとに決められた周期で、検査や修理を実施する手法だ。

 TBMでは機器が健全な状態にあったとしても、規定に従うために、検査・修理の時間や費用が定期的に発生する。大量生産する装置や機械も、実際はそれぞれの出来、不出来に違いが生じる。機械同士には“相性”もあって、故障の兆しがない限りは、できるだけ長く使い続けたいのが事業者の本音だ。

 一方のCBMでは、稼働する機器を常時状態監視することで、変化点から故障の兆候を見つける。故障や劣化の進展を予測して、この先、健全性を保てる期間「寿命」を算出する。これを元に検査や交換の最適なタイミングを検討していく。

 理論上は、TBMよりも検査や交換周期を長期化できる。事前に故障箇所を特定するため、効率的な作業も実現可能。生産性向上とともに省人化が図れ、製造から引退までの総費用であるライフサイクルコスト(LCC)も軽減できるはずだ。

 とはいえ、CBMを実現するには高度で複合的な技術が必要だ。製造・修理時の履歴管理、各種センサーによる機器稼働状況の収集と情報通信技術(ICT)、得られるビッグデータ(大量データ)を分析する組織体制、もしくは分析を自動化する人工知能(AI)など。最新技術の活用でCBMは進化する。

日本郵船、データ分析加速


 船舶は洋上で故障すると乗員が直さなければならない。故障を未然に見つけられれば乗員の負担を軽減し、安定航行につながる。日本郵船は自社運航船に船舶データ管理システム「SIMS(シムズ)」の搭載を進める。運航状態と主機や補機、各種機器の稼働状態を遠隔で監視する体制の構築を目指している。

 SIMSを使ったCBMは現在、各機器で稼働状況データの変位から故障の予兆を見つける段階。内藤忠顕社長は「2年間で220件。データから機器の不具合を見つけることができた」と成果を示す。直近まで多くの船で機器稼働データを可視化する環境すら整っていない状況だった。「不具合の原因が分かる」(内藤社長)だけでも進化だが、すでに取得したデータを分析する体制も構築。高度なCBMの実現に、研究を加速させていく。

輸送障害削減へ JR東、営業車両で設備監視


 都市圏を走る鉄道にとって課題の一つが、車両や施設の故障に起因する輸送障害の削減だ。CBMの実現で故障の予兆を把握できれば、鉄道システムの安定性は高まる。JR東日本は輸送障害の抑制を経営の重要業績評価指標(KPI)とし、2022年度に首都圏在来線で自社原因の輸送障害発生率を、17年度比半減する目標を掲げる。CBMの展開が達成のカギを握る。

 その象徴が、山手線で20編成超が運行する最新型通勤車両「E235系」だ。次世代の車両制御システム「INTEROS(インテロス)」を搭載し、車両のドアや空調、電動機やブレーキなど、あらゆる機器のデータを取得。WiMAX(ワイマックス)で地上にデータを送信して、常時状態監視を実現する。

 営業車両に搭載した地上設備モニタリングシステムから軌道や架線といった設備の状態を監視する取り組みも本格化。軌道について従来は専用車両で3カ月に1度測定していたが、毎日運行する車両を使えば、高頻度にデータを集められる。深沢祐二社長は「タイムリーな補修が可能だ。20年度までに50線区で導入する」と話す。

JAL、“予測整備”確立へ


 航空機にとって、故障は飛行中に重大な事故を引き起こす可能性をはらむ。地上で予期しない故障が見つかれば、整備のために定時運航が崩れる。日本航空(JAL)は、CBMによる“壊れない飛行機”の実現を目指しており、赤坂祐二社長は「壊れる前に修理する“予測整備”を確立する」と意気込む。

 JALは整備部門で“ゼロゼロ100”と呼ぶ目標を設定し、イレギュラー運航や飛行中の故障ゼロ、定時出発100%などを掲げる。実現のカギを握るのが“予測整備”と称するCBMの手法だ。

 JALエンジニアリングの北田裕一社長は「ビッグデータを解析して関連性を見つけ、予知保全に役立てる」との方針を示す。データだけで見るのではなく、これまでの整備の知見と連携させることで、実効性が高められると考える。

 「究極は壊れる一つ前のフライト」(北田社長)でのメンテナンス実施だ。

JALはビッグデータを活用して整備の効率化を目指している
日刊工業新聞2018年8月16日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
今後の人手不足が懸念される中で安全性を追求するには、最新技術の活用が欠かせない。 (日刊工業新聞社・小林広幸)

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