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豊田章男が語る、成功者からのチャレンジャー

 自動車の国内生産は年間1000万台前後で長年、推移してきたが、2011年には超円高の影響で、約840万台に下がってしまった。現在も1000万台割れが続く。すそ野が広い自動車産業は素材や設備なども含めるとこの規模でやってきたインフラがあるので、やはり1000万台くらいが必要なイメージを持っている。

 トヨタ自動車の場合、国内生産300万台維持とずっと言っているが、トヨタの300万台だけでは日本の自動車産業は守れない。

 全体で1000万台規模があれば、なんとか世界でコンペティティブ(強い競争力)な自動車産業を、日本発でこれからも維持できるのではないか。一定の国内生産台数があるからこそ、日本でさまざまな先進的なモノづくりの挑戦を続けられる。

 現場での実践を通じた知恵の積み重ねこそ、日本の強みだ。生産現場でのすり合わせやカイゼン、匠(たくみ)の技。現場が問題や課題を発見し、部門を越えた連携・協力を惜しまず、モノづくりのプロセスの中で起こすイノベーション。自動運転や人工知能(AI)など新しい分野の技術を実用化に落とし込むステージにおいては、この日本の現場力という強みが最も生きてくると考えている。

 自動車産業にはCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)を中心にいろいろな変化が襲ってきている。しかし、次世代の技術で日本は後れを取ってはいない。

 電動化ではハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、そして燃料電池車(FCV)を総称して電動車と捉えている。

 そして、世界各国の電動車比率は1位がノルウェーで47・6%、2番目が日本の30・6%、3位はぐっと落ちてイスラエルの9・4%だ。日本の全自動車メーカーを見渡すと、電動化のフルラインアップメーカーがそろっており、電動化にもしっかりと対処する体制は整っている。

 ただ、自動運転ではテクノロジーカンパニーなどの競争相手が参入してきている。先に技術を開発することも大切だが、安全第一や安全な交通流をつくること、交通事故死ゼロを目指すことは自動車メーカー各社共通の目的事項であり、ぶらさない軸として持っておくことが大切だ。そういう中で、新たな競争相手としっかりとスピード感をもって闘っていきたい。

 日本の自動車メーカーは世界的に見ても今のところ成功者だ。そうすると、過去の成功体験がチャレンジ意欲をそぐことが1番怖い。過去の成功は過去のものとしてとらえ、新しい変化に向かって、より高い競争力を持てるよう、競争しながらチャレンジしていかねばならない。
日刊工業新聞2018年7月19日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 5月に日本自動車工業会(自工会)の18代目会長に就任した豊田章男氏(トヨタ自動車社長)。自工会会長を2度務めるのは歴代でも初めてで、「自分らしく、現場に一番近い自工会会長でありたい。『100年に一度』と言われる自動車産業の大変革の時代に、身の引き締まる思いだ」と話す。  日本の自動車産業を数値でいうと、国内の雇用は540万人で、全産業の約1割を占める。年間の輸出金額は16兆円、研究開発費・設備投資額の合計は4・3兆円でともに製造業の2割を占める。海外も含めると、研究開発費・設備投資額は乗用車7社合計6兆円で、日本の国家予算の公共事業の金額に相当する。  章男さんは続ける。「それをどのように見るか。その割にはアウトプットが少ないと見るか、これだけの規模を現在も続けていると見るか。今後、どのようにアウトプットをしていくかが各メーカーの課題でもあり、この分野は協調すべき、この分野はより競争をすべきという点を、自工会である程度のリード役を果たせたら良いと思っている。そして、日本の成長を引っ張っていく存在であることにはこだわりたい」と。

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