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福岡県が軽量Rubyの交流組織設立へ!IoT分野への利用促進狙う

“ポスト・メイカームーブメント”に向けて
福岡県が軽量Rubyの交流組織設立へ!IoT分野への利用促進狙う

2013年3月に福岡県が東京で開催した軽量Rubyのイベント

 福岡県はプログラミング言語「軽量Ruby(ルビー)」をテーマにした交流組織を23日に設立する。新組織「軽量Ruby普及・実用化促進ネットワーク」は、モノのインターネット(IoT)分野などで軽量ルビーの利用促進を図るのが目的。ハードウエア関連企業が参加しやすい組織とし、交流会などを通じ技術を普及させる。

 ネットワークは福岡県外からの参加も可能。当初は150人ほどの加入を見込む。2015年度の技術交流会は、福岡で4回、東京で2回程度の開催を検討している。

 軽量ルビーはプログラミング言語「Ruby」に基づいて12年に開発された。プログラムを作る際にメモリー容量が少なくて済むことなどが特徴で組み込みソフトに向いている。インターネットルーターや海洋情報収集システム、農業用センサーなどで採用実績がある。

 福岡県は産学官組織「福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議」やJR博多駅近くに整備した企業支援拠点「福岡県Ruby・コンテンツ産業振興センター」で開発支援やベンチャー育成、産学連携などに取り組んでいる。同会議の会員など従来の支援対象にはソフトウエア関連が多く、ハードウエア関連の参加を増やすことが課題となっていた。

2年前の春、東京・秋葉原は熱気に包まれていた!


 人間はなぜモノを作りたがるのだろうか。単に消費するだけでは満足しない遺伝子が組み込まれているのだろう。この数年でハードウエアの生産コストが劇的に下がり、新しいモノづくりの担い手「メイカーズ」が続々誕生している。今はごく小さな事象でも、歴史の大きな潮流になっているかもしれない。
 
 【「Ruby」改良】
 3D(3次元)プリンターなど低価格の機械が登場。またネット上で自由に資金調達や販売ができるようになり、これまで大手企業の独壇場だったモノづくりへ、ベンチャーや個人も簡単に参入できる時代になった。ITで先行する米国で始まったメイカームーブメント(製造業革命)の波が、日本にも押し寄せようとしている。

 3月中旬。東京・秋葉原で福岡県が取り組む国産プログラム言語「mruby(エムルビー)」の交流イベントが開かれた。最近のメイカーズブームもあり、会場には約250人が詰めかける盛況ぶり。エムルビーはウェブ言語の「Ruby」を、ハードウエア向けの組み込み用途に改良したもので軽量Rubyとも言う。

 これまでハードの世界の人、ITの世界の人が交わることはほとんどなかった。しかしオープンソースのエムルビーは両者を橋渡しする存在になりつつある。福岡県や九州には自動車、半導体、ロボットなど製造業の中核を形成する工場が集積。開発プロジェクト携わる九州工業大学の田中和明准教授は、「手軽で使いやすいルビーを組み込み分野で利用してもらいたい」と話す。

 【敷居高く】
 組み込みの世界は敷居が高く、自動車や家電などの基本ソフト(OS)はこの20年ほど大きな変化が起きていない。特に自動車分野は、決められた時間内に処理するリアルタイム性や厳格な安全性が求められる。ルビーの生みの親で日本のプログラム言語開発の第一人者、まつもとゆきひろ氏は「すぐにC言語を使う工業製品の主流になるとは思っていない」と冷静だ。

 自動車や家電などは20世紀の大量生産の象徴。しかし多くのコンシューマー(消費者)を取り込もうとし過ぎて、ユニークな商品が生まれにくくなっている。エムルビーはもともとウェブ言語だけあって、伝統的なハードウエア製品の開発に無関係な斬新なアイデアが入ってきやすい。

 【一大ブーム】
 インターネットイニシアティブ(IIJ)は通信回線網の遅延を測定する特殊なルーターをエムルビーで開発した。同社の立久井正和プラットフォーム本部長は、「社内の主流ではないプログラマーから使い始めたが、結果的にクラウド上での拡張が展開しやすい」と話す。逆にIT業界でもハードウエア側に接近しつつある。楽天の森正弥執行役員は「スマートフォンの普及でEコマース(電子商取引)とデバイスが急接近しつつある。今、研究所ではエムルビーは一大ブームだ」という。
 
 「ハード×IT」で最も重要な役割を果たす組み込みソフト。プログラム言語の選択は、エンジニアの気持ち良さと相関がある。エムルビーの開発コミュニティーが醸成されることで「マスプロダクツへ利用が広がるかもしれない」(まつもと氏)。現在の製造業革命は大量生産のビジネスモデルを破壊するものではなく、オープンソースや3Dプリンターがイノベーションを補完する。
 (肩書きは当時)
日刊工業新聞2015年07月15日 中小企業・地域経済2面
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
九州ではまだIoTやインダストリー4.0を現実的なものとして、とらえられていない気がします。その意識の部分でも変化が起きることに期待します。

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