ニュースイッチ

生産性の高い書き方【文章ゼミ#04】

フロントローディングで書く
この記事のポイント
1、「工学」の考え方を取り入れる
2、執筆効率を上げる原稿仕様書の作り方,使い方
3、技術書としてのストーリーの良し悪しを確認する



 日本の労働生産性の低さが話題になって,働き方改革が叫ばれている。多くの日本企業では,まずはとりあえず各部署が大急ぎで仕事を始めて後で調整することが多い。企業の従業員が「事前検討は上手でないが,納期が迫ってくれば労を惜しまないのが日本人の強みだ」と半分自慢,半分自嘲することがよくある。

 これが日本人が勤勉に働くわりには労働生産性が低くなっている主因である。複雑な仕事をするときは,労力の前倒し(Front Loading,ここでは企画構想の充実)をすべきである。このような仕事の効率化を考えるのが工学の本来の役割である。

 Engineeringは計画的,組織的に目的を達成する学問である。エンジニアリング会社とは,最適解を求めて産業界に存在する技術を選び,目的を実現するための一連の活動を担う会社と言える。しかし日本の大学の工学部は理学寄りで,エンジニアリングの手法があまり教えられていない。

 さて,数十枚以上の技術書では,原稿仕様書(仮称)を先に書くほうが効率的である。原稿仕様書には「読者像の明確な記述」「類似出版物の概要」「差異化方針」「ストーリー」などを書く。ある専門書の原稿仕様書の抜粋を以下に示す。
ある専門書の原稿仕様書の抜粋

 出版界には,著者陣がバラバラに書いた原稿をホチキスで綴じたような専門書が,結構多い。logos(論理,思想)のkata (寄せ集め)ではkata-logos (カタログ)である。粗製乱造されたハンドブックを読むと,部分知の集合が全体知にならないことがわかる。共著者による出版物では,狙いや方法論を共有するため原稿仕様書を作成すべきである。

 原稿仕様書作成の第一ステップで仮のストーリーを考えてExcelに並べ,章立てする。ストーリーに係わるタイトル(必要に応じてサブタイトルも)や重要な記述,キーワードなどを各章,各節,各項ごとにリストアップする。

 次に,このリストに主要図表をリンクさせて,あたかも紙芝居のようにストーリーを音読する。展開に不自然なところが見えれば,組み換えや細部の加除をする。

次回:#5 何かを書くために必要な情報の収集・整理法 (公開予定日6月23日)
この連載について
筆者プロフィール:廣田幸嗣(ひろた・ゆきつぐ)
1946年生まれ。1971年、東京大学工学系研究科電子工学修士課程修了。同年,日産自動車入社。同社総合研究所でEMC,ミリ波レーダ,半導体デバイスなどの研究開発に従事。この間,商品開発本部ニューヨーク事務所に3年間駐在。2015年3月まで,日産自動車で技術顧問,カルソニックカンセイでテクノロジオフィサ,放送大学非常勤講師。
人工知能学会理事,技能五輪シドニー大会電子組立エキスパート,東大大学院非常勤講師などを歴任。

主な著書
「とことんやさしい電気自動車の本 第2版」 (日刊工業新聞社)
「ワイヤレス給電技術入門」 (共著,日刊工業新聞社)
「電気自動車の制御システム」 (編著,東京電機大学出版局)
「電気自動車工学」 (編著,森北出版)
「パワーエレクトロニクス回路工学」 (編著,森北出版)
「バッテリマネジメント工学」 (編著,東京電機大学出版局)
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
原稿仕様書は、文書に関わる人たち同士のコミュニケーションツールとしても役に立ちます。

編集部のおすすめ