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「事業承継にはM&A促進が不可欠」(中小企業庁長官)

安藤久佳長官インタビュー
 団塊世代の経営者が大量に引退期を迎え、日本は“大事業承継時代”に突入する。政府は後継者難にあえぐ中小企業の円滑な世代交代に向け、2018年度事業承継税制の改正をはじめ着々と支援策を打ち出した。その先導役を担う安藤久佳経済産業省・中小企業庁長官に今後の課題などを聞いた。この中で安藤長官は現行制度について「M&A(合併・買収)のインセンティブを与えていくような支援策がまだ非常に薄い」との認識を示した。

 ―18年度税制改正では事業承継税制が主要テーマの一つでした。その意義から聞かせてください。
 「日本企業の9割を占める中小企業の高齢化問題は、日本の企業構造・経済構造だ。今後10年間累計で約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)が失われるという事業承継が持つ切迫感を、世の中が改めて認識したことに尽きる」

 ―事業承継税制のポイントと課題は。
 「改正後の事業承継税制は、法人の経営者から事業承継した際の相続税・贈与税の特例を認め、親族内の事業承継を円滑に進めるためのインセンティブ措置になる。次の課題は対象ではない個人事業主への対応をどうするかだ」

 「(親族外である)第三者への事業承継となるM&A時の税制上の措置として、登録免許税と不動産取得税の軽減措置を初めて講じた。事業を承継する後継者を身内や親族の中だけで探すのは現実的に困難で、M&A促進が不可欠。だがM&Aのインセンティブを与えていくような支援策がまだ非常に薄い。事業承継税制の抜本拡充だけではカバーできておらず、どういう政策支援があるか、さらに検討していく」

 ―今後の中小政策の方向性は。
 「(後継者不在の)会社を他社に承継してもらいたい経営者と、事業を引き継ぎたい経営者がマッチングできるM&Aデータベースを全国規模で構築していく。特に支援が必要な経営者に対して、集中的かつ効果的に働きかけるプッシュ型の支援体制も積極的に展開する」

 「事業承継を契機に、ものづくり補助金やIT導入補助金といった中小企業施策を最大限活用して、シナジーを発揮することが中小企業の生産性向上につながる。金融機関などの支援機関も一体となり、総力戦で世代交代を支援してほしい。承継を機に第二創業といった会社の磨き上げを行ってもらい、“国民運動”的に展開をしていくことが必要だ」
  

安藤久佳経済産業省・中小企業庁長官
日刊工業新聞2018年5月1日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
事業承継税制が拡充され、後継者不在の中小企業が第三者に事業売却するケースでも、税負担が緩和されるなど実態に即した制度が実現した。しかし手続きや手順をめぐり、M&Aや事業譲渡のハードルは依然として高いのも現実だ。企業庁は、厳しい経営環境に直面する中小企業の力を引き出す政策策定でどこまで踏み込めるのか。日本経済を支える中小企業の円滑な世代交代なしに日本再生は期待できない。 (日刊工業新聞・山下絵梨)

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