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習近平の「トイレ革命」も取り込め!TOTOが世界一の美しさで世界へ

創業100年目に、次の100年をつくっていく戦略商品
習近平の「トイレ革命」も取り込め!TOTOが世界一の美しさで世界へ

世界に快適なトイレ環境を求める声が広がっている(旗艦商品「ネオレストNX」)

 次は世界のトイレを快適に―。TOTOは2018年度に始める5カ年の次期中期経営計画で、海外事業主体の成長戦略を描く。目標は「次の100年に向けて世界中にTOTOファンを増やしていく」。日本のトイレは世界一清潔で快適と言われる。TOTOは下水道も整備されていない時代から衛生陶器の生産に乗り出し、日本の水回り文化をつくってきた。創業から100年を迎え、新たな挑戦が始まった。

 次期中計では22年度に17年度予想比20%増の売上高7200億円を目指す。増収分1200億円のうち7割を海外の住宅設備事業で稼ぐ計画。売上高構成比に占める海外事業の割合も17年度比7ポイント増の3割に達する。

 TOTO社長の喜多村円は「それぞれの国・地域の成長性や将来起こること、ユーザーが望むことを徹底的に議論した」と計画に漏れはないと強調する。策定には2年をかけた。

 中国では習近平国家主席の指示のもと全土で「トイレ革命」が進行している。インドも衛生環境の改善を目指す「クリーン・インディア」キャンペーンを展開中だ。快適なトイレ環境を求める声は世界に広がっている。

 衛生陶器は交換サイクルが長い商品だ。一回購入すれば20―30年は使う。「『TOTOの商品を選んでよかった』という需要家の満足」(喜多村)は世代を超えて伝播する。

 優れた商品をそれぞれの国・地域で最高のサービスとともに提供し、ブランドを確立することが「次の100年をつくっていく」ことに他ならない。

 海外で唯一、営業赤字を計上していた欧州市場でも攻勢をかける。キーワードは「デザインと機能の融合」。デザイン優先の欧州市場で、競合他社をリードする美しさを持った商品の投入を目指す。

 2017年6月にはトイレの旗艦商品「ネオレストNX」を発表。温水洗浄便座などのメカニカルな機能を別体式にせず、すべて衛生陶器に内蔵するという常識破りの設計と生産技術でデザイン性を高めた。「他社がつくれないものを当たり前のように作ってしまう技術力こそTOTOの財産」(喜多村)。グローバルで同じ商品を戦略的に展開していく。

陶器の美しさにこだわる


 一見すると真っ白い塊のようで、凹凸はなく、ボタンもセンサーも見あたらない―。TOTOのトイレで旗艦商品となる「ネオレストNX」は、トイレというよりも陶器そのものに見える。「一般の人はトイレにデザインがあることすら知らない。そこをいかに格好よくしていくか」。デザインを担当した吉岡佑二は仕事の醍醐味(だいごみ)を語る。

 開発プロジェクトには吉岡らデザイナーをはじめ、開発や商品企画、研究所の各部門の若手が集められた。その一人で温水洗浄便座「ウォシュレット」の開発を担当した庭野祥子は、「創業100周年に発売する『ネオレスト』への期待に応えられるのか苦しんだ」と当初を振り返る。

 空間をコーディネートするという発想で、存在感を主張しないトイレにしようと考えた末、上層部から強烈な“ダメ出し”を受けたこともあった。

 重苦しい雰囲気を打破するため、吉岡はたった1時間でネオレストNXの原型となるCGを描き上げて提示。メンバーから満場一致で賛意を得て、再びプロジェクトは動きだした。「モノに魅力があれば、魅力的な空間ができる」(吉岡)という逆転の発想で、陶器の美しさにこだわることにした。

 機能面には培った技術を惜しみなく投入した。便器内部のボウル(便鉢)は、おわんのような理想の形を実現するために新しい洗浄方式を開発。吐水口の位置を変え、便器のふちの“返し”もなくした。

 便器後方に勢いよく水が当たるため汚れが落ちやすくなったほか、正面から吐水口が見えなくなり、見た目もすっきりした。返しがないことで掃除もしやすくなった。陶器の焼成後に生じる誤差に対応するためフタの合わせ方も工夫。庭野は「便器のふたもスーっと開いてピタっと止まる」と胸を張る。

 「小さな点にもこだわり、決して手を抜かない。だから文化を変えていける」(庭野)。NXの開発は、そんなTOTOの姿勢を象徴する製品でもある。
「ネオレストNX」と開発者、デザイナー(左端が吉岡さん、右端が庭野さん)

(敬称略)
日刊工業新聞2017年12月5日/6日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
喜多村社長は「中期経営計画で掲げた目標は決して無理な数値ではないが、結果よりもプロセスが大事だ。100年、200年続く企業にするために今なにをするか、ということをやる。IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)など最先端の技術を組み合わせ、より快適な水回りを実現する商品を作っていく」と話す。 (日刊工業新聞北九州支局長・大神浩二)

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