ニュースイッチ

医療機器も再製造・利用の時代に、普及への期待と課題

医療費の削減につながるか、メーカーには死活問題
医療機器も再製造・利用の時代に、普及への期待と課題

単回使用医療機器(SUD)の再製造の作業風景

 使用済みの単回使用医療機器(SUD)の再製造に向けた動きが活発化している。普及を目指す任意団体「単回医療機器再製造推進協議会」が発足し、事業化を目指す企業も出始めた。医療の安全性を確保しながら、資源の有効活用や持続可能な国の医療制度に貢献することが期待される。

産学官で参加呼びかけ


 「医薬品にはジェネリック(後発薬)がある。医療機器にも“引き算”が必要」。協議会の理事長に就任した松本謙一サクラグローバルホールディング会長はこう主張する。協議会は再製造SUDの普及に向けて、関係行政機関への提言や意見調整、技術課題の検討、関連情報の提供などに取り組む。

 オリンパスやホギメディカル、日本ストライカー(東京都文京区)など医療機器・材料メーカー9社が参画。武藤正樹国際医療福祉大学大学院教授、上塚芳郎東京女子医科大学付属成人医学センター所長・特任教授が最高顧問に就くなど、産学官で連携する。

 松本理事長は「貴重な医療資源の有効活用、安全管理、環境保全、経済性の観点で考えたい」としており、医療機器メーカーや販売業者などに広く参加を呼びかける。

 再製造SUDで注目されるのは経済効果だ。先行する米国では、再製造SUDはオリジナル品の50―70%程度の価格帯で流通し、医療費抑制の重要な選択肢になっている。上塚特任教授も「日本の医療費の削減につながる」と期待する。

 国内で事業化を進めるホギメディカルでは、2017年度末に許認可申請を開始し、19年度に事業を始める計画だ。「医療費抑制の一端を担う。

 産業として広がることを期待したい」(佐々木勝雄取締役生産本部長)という。医療現場では大量のSUDの廃棄も問題になっており、「再製造SUDの導入で、廃棄物の削減に貢献できる」(佐伯広幸日本ストライカー社長)。
               

オリジナル品への影響懸念


 ただ、再製造SUDの普及・拡大は、オリジナル品を扱う医療機器メーカーにとっては死活問題だ。オリジナル品と安価な再製造SUDで、カニバリゼーションを起こす恐れもある。販売数量の減少や再製造品につられて価格の低下なども想定される。

 「再製造SUDで今後、いろいろな“波紋”が出てくるのではないか」と武藤教授は指摘する。医療機関のニーズを反映して事業に取り組むのか、それともオリジナル品の機能を一層磨くのか。医療機器メーカーは今後の企業戦略が問われる。

海外は安全・承認基準を整備


 再製造SUDは世界的な流れだ。厚生労働省の研究事業で欧米の再製造SUDの実態を調査した武藤教授は、「オリジナル品と同等のものとして定着している」と説明する。

 かつては海外でも日本と同様に、病院で洗浄・滅菌したSUDを再使用する問題が頻繁に起きていた。米国では00年以降、米国食品医薬品局(FDA)が再製造SUDに関する安全基準・承認基準を整備し、公式な使用の道を開いた。その後、米ストライカーや米ジョンソン・エンド・ジョンソンなど大手医療機器メーカーが再製造SUD事業に参入している。

 再製造SUDはオリジナル品より安価で、中には半額程度のものもある。病院経営にも大きな利益を生んでおり、武藤教授は「EP(電気生理用)カテーテルなどは再製造品が多く、もはや常識になっている。心配された感染事故なども全く発生していない」という。

 欧州ではドイツが盛んで、02年から再製造SUDはオリジナル品と同等に扱われ、多くの病院が使用している。欧州全体では17年5月、医療機器に厳格な品質・安全性の管理を求めた医療機器の新規制(MDR)が発行し、その中で再製造SUDに関する項目を盛り込んだ。
            

“使い回し”減らず、院内感染発生も


 再製造SUDが制度化された背景には、厚労省が再三にわたり医療機関にSUDの適正使用を求めているにもかかわらず、病院内でSUDの“使い回し”が後を絶たないことがある。SUDの再使用が判明するたびに、厚生労働省は再使用禁止の通達を出しているが、「実質的に大きな改善を見ていない」(佐伯社長)状況だ。

 院内で洗浄・滅菌したSUDは、医療機器メーカーによる安全性や性能の保証もない。そのため、感染や製品の劣化リスクが指摘されている。実際、過去にSUDの再使用で院内感染が発生するなど健康被害につながったケースも少なくない。

 それでもSUDの使い回しがなくならないのは、SUDが高価なことが影響している。SUDは1本数十万円とも言われ、手術のたびに複数本使用する。

 「医療関係者から高価なSUDを1回で使い捨てするのはもったいないという声はよく聞く」(関係者)。表面化していないが、多くの医療機関で使い回しの実態が残っているとの指摘もある。

 松本理事長は「(再製造SUDは)医療機関からの“問題提起”でもある」と問いかける。武藤教授も「再製造SUDは第3の道。院内での再滅菌、再使用が減るのではないか」と期待している。
(文=村上毅)
【単回使用医療機器の再製造】
安全確保のため、使い捨てとしている単回使用医療機器(SUD)を収集し、分解、洗浄、部品交換、滅菌など適切に再製造し、再使用を認める制度。2017年7月に厚生労働省が省令を改正し、導入した。主なSUDには、EP(電気生理用)カテーテルや腹腔(ふくくう)鏡用血管シーリングデバイスなどがあり、米国では先行導入され、医療現場で使用されている。今回の制度では再製造SUDの製造・販売には製造販売業の許可を必要とするほか、オリジナル品とは別の品目として承認を必要とする。再生部品や製造、流通のトレーサビリティー(履歴管理)を確保し、安全対策や回収など医薬品医療機器法上の責任は、再製造した製造販売業者が担う。
          


日刊工業新聞2018年2月6日
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
「聴講者として参加した勉強会で熱気を感じた。日本もやる必要があると痛感した」と、松本謙一理事長は協議会設立の動機をこう力説する。日本の医療制度を持続するためには、コスト削減の議論は不可避だが、再製造SUDには業界でも温度差がある。松本理事長が「自社のビジネスうんぬんではなく、日本のために何か応えられればいい」と語るように、同氏のリーダーシップに注目したい。

編集部のおすすめ