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再生エネ電力、需要家同士で売買できる「デジタルグリッド」とは?

フジクラなどが新会社、新たな価値観で電気の利用方法や行動が生まれる
再生エネ電力、需要家同士で売買できる「デジタルグリッド」とは?

写真はイメージ(GE REPORTSより)

 フジクラ、立山科学工業(富山市)など5社は、家庭や工場など需要家同士が再生可能エネルギーでつくった電気を取引する電力サービス会社を立ち上げた。需要家が売ったり、買いたい電気を選んで購入できたりするプラットフォーム(基盤)を構築する。家庭でつくった昼間の余剰電気を販売しやすくなり、企業も再生エネ由来電気を選んで調達できるようになる。電力会社への依存度を下げる手法として、現行の電力ビジネスに一石を投じそうだ。

 新会社は「デジタルグリッド」(東京都千代田区)。阿部力也氏(元東京大学特任教授)が開発した電力融通技術「デジタルグリッド(DG)」を活用して、電気を取引する。

 フジクラなどのほか、DG共同開発者のテセラ・テクノロジー(横浜市西区)、マクニカ(同港北区)、電巧社(東京都港区)も出資した。さらに15社程度が出資を検討している。阿部氏が会長、立山科学出身の越村吉隆氏が社長に就いた。2022年度に売上高約70億円を目指す。

 DGはインターネットで情報を送るように、電気をやりとりできる。顧客は売買価格、再生エネ由来など電気の種類といった条件を、専用機器で設定する。例えば家庭の場合、太陽光パネルの電気を工場へ送ったり、安い電気を探して自宅の電気自動車(EV)に充電できたりする。「だれに売った」「だれから買った」といった履歴も記録できる。

 DGは実証事業で技術を確認済み。19年には環境省の実証としてさいたま市で、家庭と店舗を結んだ電力融通を始める。新会社はブロックチェーン技術を使い、需要家の売買を記録し、決済できるシステムを構築する。現状の電力システムでは需要家同士は電力を取引できない。

 リコーや積水ハウス、アスクルが電気全量の再生エネ化を宣言しているが、現状では再生エネ電気の購入手段が限られる。再生エネの調達には電気を取引できる技術やビジネスモデルが必要だった。
                          
日刊工業新聞2018年2月1日
江原央樹
江原央樹 Ehara Hiroki 日本能率協会コンサルティング
 デジタルグリッドとは、元東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻特任教授で現在、デジタルグリッド(株)の代表取締役会長の阿部力也氏が提唱した技術である。東京大学阿部研究室のホームページの掲載分を引用すると、「デジタルグリッド TM は、情報と、情報によりアクティブに電力制御を行う半導体素子とを組み合わせて電力潮流を制御する新しい電力システムです。電力潮流を複数の電力系統に流すデジタルグリッドルーター TM や、同期系統の中で電力機器に外部信号を加えてルーターと連携制御をさせるデジタルグリッドコントローラー TM などがキーデバイスです。 (特許出願中)」とのことである。  小職なりにこれを理解すると、ある地域内で、再生可能エネルギー等の発電設備とその電力を蓄電池に貯蔵するシステムが複数あった場合に、電力の消費者がそのうちの特定のシステムから電力をタイムリーに購入することを可能にする技術ということである。この技術により地域内の複数の電力供給者と複数の消費者の間で縦横無尽に電気の実質的な売買が可能になる。これは電気が個人の資産価値を持つことを意味し、経済性の観点で、電力料金が安いか高いかだけではなくどれだけ保有しているかという新たな価値観に基づいた電気の利用方法や行動が生まれる可能性が高く、自ずと新たなビジネスチャンスがそこには生まれるであろう。今後のデジタルグリッド(株)の活動には注目である。

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