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ヤマト、大口顧客4割離脱も“想定内”?EC大手は配送網構築の可能性も

宅配ではないロジ網が整備される時代が来る?
 ヤマトホールディングス(HD)は1月末までに、宅配便大口法人顧客約1100社との価格適正化交渉をほぼ終え、約4割の顧客が契約を更新しなかった。配送能力を荷物の引き受けが上回る宅配便ビジネスモデルの限界。その引き金を引いたとされる電子商取引(EC)大手の米アマゾンも値上げを受け入れた。ただ大手3社に事実上限られていた宅配サービスの提供は、IT活用で変化の兆しも現れてきた。

 1月30日に都内で開いたヤマトHD決算会見。芝崎健一専務執行役員は「もう少し他社を利用する法人があると思った」と述べ、顧客離脱が会社想定内だったことを明かした。荷受けを減らす総量抑制の効果もあり、最繁忙期である12月にヤマト運輸の宅配便個数は前年比6%減った。

 離脱客の受け皿となったのが日本郵便だ。12月の宅配便個数は前年比22%増。地域区分郵便局を大規模化して配送能力を高めたが一部で遅配が発生した。

 宅配便はヤマト、佐川急便、日本郵便の3社でシェア9割を超える。全国をくまなくカバーするネットワークを維持して“生活を支えるインフラ”だと訴求してきた。

 だが、EC事業者が今後も既存事業者を使い続けるとは限らない。アマゾンや楽天など大手EC事業者が、自前の配送網を確保することは決して不可能でない。

 各地に数千の拠点を設け、ドライバーを雇用するには膨大な費用が必要だ。しかし、情報通信技術(ICT)を活用して各地の中小運送会社をつなげば、配送網は構築できる。物流サービスのダイワロジテック(東京都千代田区)秋葉淳一社長は「宅配じゃないロジスティクス網が整備されていく」とも見る。

 丸和運輸機関やSBSロジコムといった中小事業者を支援する物流企業、Hacobu(同港区)やラクスル(同品川区)のような物流ITベンチャーが候補だ。カギを握るのは“求貨求車”と呼ばれる荷物とトラックをマッチングする業務。インターネットの活用で、地域に根ざした個人事業主や流通・鉄道系運送業者などを巻き込み、全国規模で物流シェアリング基盤構築の可能性を秘める。

 荷物の配達という点では、品質面で一日の長があるものの、宅配事業者は差別化が難しくなるかもしれない。ただ配達員やセールスドライバーは地域密着型で顔なじみ。高齢者見守りのような地域ニーズに応える非宅配サービスも提供していくことで“生活を支えるインフラ”としての地位に揺らぎはない。
(文=小林広幸)
日刊工業新聞2018年2月6日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
ECの比率がますます高まる中で、新たな物流網の拡充は必要不可欠なのかもしれません。

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