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抜本改革のはずなのに新薬普及が海外よりも遅れてしまう!

予測できなかったトリッキーな制度、外資製薬の投資に影響
 2017年12月に決まった薬価制度抜本改革の内容が波紋を広げている。製薬業界は、後発薬がない新薬の価格を実質的に維持する枠組みである新薬創出加算の対象範囲が縮小されたことに激しく反発。企業の開発意欲が減退し、新薬の普及が海外よりも遅れてしまうドラッグ・ラグが起こるとの見方も出た。ただ、待ち望まれている新薬の開発は簡単にはやめられない。各社は患者へ貢献する使命と事業の採算性との間で揺れ動く。

 「製薬企業の新薬開発意欲を著しく損ねるものであり、革新的新薬の創出を促進するのにふさわしい仕組みとは考えられない」。日本製薬工業協会(製薬協)の畑中好彦会長(アステラス製薬社長)は18年1月16日の定例会見で、新薬創出加算の見直しに対して憤りをあらわにした。

 新薬創出加算の対象は、新規作用機序医薬品の収載から3年・3番手以内の品目に限られる。企業要件も設けられ、薬価を維持されるのは上位25%の会社となる。畑中会長は「品目要件や企業要件については当局と今後協議をさせて頂きたい」とし、改善への働きかけを粘り強く行っていく意向を示した。

 一方で畑中会長は「製薬協加盟会社は価値の高い新薬を出すことがビジネスモデルの源泉。研究開発から手を抜くことは考えにくい」と話し、外部環境が厳しくとも各社が果たすべき使命は変わらないと指摘した。「今回の抜本改革で軽々にドラッグ・ラグが拡大するとは考えていない」とも述べた。

 ただ、ある国内新薬メーカーの首脳は「ドラッグ・ラグは起きる」と断言する。理由を「日本にいる我々ですら予測できなかった、トリッキーな制度が出てきている。海外勢は余計にそう感じるだろう」とし、日本市場の事業予見性が低くなったとみている。

 この首脳が特に問題視した抜本改革の項目は、長期収載品の価格引き下げルールだ。特許が切れた先発薬である長期収載品の薬価は、後発品発売から16年が経過すると後発品と同じになるケースも出るとされた。先発品の薬価が後発品を基準として決められることに違和感がぬぐえず、薬価引き下げの方法論としては考えにくかった内容だという。

 1月29日に都内で会見した米国研究製薬工業協会(PhRMA)のパトリック・ジョンソン在日執行委員会委員長(日本イーライリリー社長)は、長期収載品の薬価引き下げは許容する見解を示した。だが日本市場全体については、「予見性が著しく低下する」と批判。日本政府に対しては新薬創出加算の再検討を要望した。

 ドラッグ・ラグが起きるかとの問いに対しては、「ほとんどの人は日本の競争力が大幅に損なわれ、新薬が第1波で日本に投入されることがなくなると考えている」と指摘。その上で「日本への投資を本社にお願いするのは私の仕事であり努力を続けるが、投資誘致にはマイナスの影響が出る」と続けた。
(文=斎藤弘和)
日刊工業新聞2018年2月1日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
抜本改革は国民皆保険制度の持続と技術革新の推進の両立を目指して行われたが、製薬業界ではバランスが取れていないとの不満がくすぶる。そうした中でも新薬開発への志を保ち、利害関係者の共感を得ることはできるのか。各社のかじ取りは難しさを増す。 (日刊工業新聞第二産業部・斎藤弘和)

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