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福島第一原発がトヨタ式カイゼンで“普通”の現場を取り戻せ!

1日5000人、部門や所属企業の壁を越えメンバーまとまる
福島第一原発がトヨタ式カイゼンで“普通”の現場を取り戻せ!

視野が広がり、声が通りやすくなった全面保護マスク(代表撮影)

 福島第一原子力発電所を“普通”の現場に戻す取り組みが続いている。東京電力は福島第一廃炉推進カンパニーを2017年11月に組織改編し、「カイゼン室」を新設した。トヨタ式のカイゼン活動を導入し、効率改善を進める。カイゼンには現場の活気が現れる。作業者の安全確保から始まった福島第一は、生産性や効率性に取り組める段階を迎えつつある。

 「カイゼン目標・待ち時間半減」―。福島第一原発の構内に入ると、必ず通る「入退域管理施設」のゲートに標語が並ぶ。福島第一原発では1日約5000人が働き、プラントメーカーやゼネコンなどの協力企業から多くの人員が行き交う。そのため、職場単位や工場単位の活動よりもカイゼンは難しい。そこでまず、みなの目に触れる所から意識啓発を進めている。

 「まだまだ始めたばかり。成果として紹介できるものはない」と廃炉コミュニケーションセンターの廣瀬大輔氏はこう説明する。従来は効率よりも安全安心を最優先にしてきた。実際、掲げられているのは標語に限られ、カイゼン事例を共有したり、発想を促したりする掲示はまだとぼしい。

 それでも労働環境が改善し、普通のカイゼン活動ができる現場に近づいてきた。構内線量の低減が進み、放射線防護装備の改良や防護エリアの縮小が進んだ。構内の95%は一般作業服で活動できるようになった。原子力・立地本部の菅野定信本部長代理は、「作業性が上がり、配管敷設や設備保守などの効率は向上している」と説明する。

 特に建屋内は設備配置や人の流れが整理され、防護マスクや軍手などの消耗品や携帯式線量計などの供給管理が動線上にうまく配置されている。一方、屋外では仮設架台の上に配管やケーブルが張りめぐらされ、その上や下に遮水用のモルタルが吹き付けられているなど、雑然としたままだ。モルタルを割って植物が繁茂するなど、自然の力が勝っている。

 福島第一原発は事故後の野戦病院のような現場から、7年をかけて“普通”を取り戻そうとしている。こうした取り組みを周知し、客観視するためにも、廃炉カンパニーは現在年間1万人の視察者を20年までに2万人へ倍増させる。

 カイゼンは現場の活気そのものだ。カイゼンは活動を通して部門や所属企業の壁を越え、メンバーをまとめる強力な経営ツールになりえる。今後は視察者が増え、多くの目が入る。視察者がカイゼン自体を学ぶ大手企業の模範工場のようになるまでには時間がかかるかもしれないが、現場の活気や団結を見せられるか注目される。
屋上がれき撤去に向けた1号機(代表撮影)

(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2018年2月1日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 製造業ではカイゼンを見える化すると工場が営業マンになります。模範工場には異業種がカイゼンを学びに来て、その現場にほれてして仕事をお願いすることもあります。難しい仕事や短納期な仕事など、無茶なお願いは信頼できることにしかできません。カイゼン見える化は現場を強くするだけでなく、企業への信頼獲得につながります。東電の廃炉には厳しい目が向けられています。多くの目が入るようになると、指摘や提案が集まります。外からの声にいかに応えたか示せると良いと思います。

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