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日本三大魚醤「しょっつる」、ポテトチップス味にも採用

ハタハタ禁漁を超えて
日本三大魚醤「しょっつる」、ポテトチップス味にも採用

秋田県冬の味覚「しょっつる鍋」

 エスニック料理が普及し、今やナンプラー(アンチョビなどを原料に作られている「タイの魚醤」)が台所にある家庭も多くなった。

 アジアンテイストブームで知られるようになったナンプラー(魚醤)だが、日本にも魚醤がある。それどころか「日本三大魚醤」もある。秋田県のしょっつる、石川県のいしり(いしる)、香川県のいかなご醤油がそれだ。伝統的に各地に根付いた魚醤だが時代の変化と共に食生活が変化。その存在が危ぶまれた時期もある。

 漁獲高の変動も向かい風となった。例えば市販されている「しょっつる」も原材料を確認すると、サバやイワシ、サンマなど青み系の魚が含まれているものも多い。

 実は秋田県では、ハタハタを守るために平成4年9月から平成7年9月まで、 全面的に禁漁を実施。それに伴いハタハタのみで作る魚醤を作る生産者が一時県内から消えたのだ。

 秋田県男鹿市・諸井醸造は、今日では珍しい、ハタハタのみでしょっつるを作っているメーカーだ。元々味噌や醤油を作っていたが、消費人口の減少、食生活の変化から生産が減量。その打開策と、当時の市販製品としての「しょっつる」を憂い、生産を三代目諸井秀樹社長が着手した。

 原料のハタハタは減少によって高騰、しかも冬の約2ヶ月(3週間の漁獲期間の仕込みに限られる)しか使えない。「始めた頃は商売になるか分かりませんでした」と諸井秀樹社長は当時を振り返る。だが試行錯誤を繰り返し、今や年間15トンを生産。会社の売り上げのほぼ半分がしょっつるだという。

 諸井醸造では「ハタハタと塩のみ」使用するという古くからのやり方を踏襲している。小麦など糖質が入っていないので、時間が経過しても澄んだ琥珀色のまま。自己消化分解をさせ、3年以上熟成させ市場に出す。魚臭くない、上品でまろやかな味が特徴で、ナンプラーを想像して味わうとこれが魚醤かと驚くかも知れない。
諸井醸造のしょっつる


 一度は県内から消えかけたしょっつるを盛り上げるべく、諸井醸造では工場見学なども受け入れている。「秋田のしょっつる、ハタハタの食文化を守っていく一翼を担っている」という自負がある。

 「そのままのしょっつるを味わって欲しいという思いから、出汁や麺汁などといった加工品を避けています。全ては美味しい『しょっつる』を残すためです」

 2017年、カルビー株式会社が実施した「地元ならではの味」をポテトチップスで再現する「♥ JPN(ラブ ジャパン)」プロジェクトにて秋田県の味に「しょっつる鍋」味が採用され、諸井醸造のしょっつるパウダーを使用したポテトチップスが販売。好評を得た。

 「秋田の味、秋田の調味料として『しょっつる』が認識されている証明と、多くの人に味わっていただける機会を得た」と異色のコラボを喜ぶ。

 1tのハタハタから作れる魚醤は、多くて500リットルだそう。大量生産が出来ないしょっつるの今後の展望を尋ねると「『どう使うか分からない』という声もあるので、しょっつるを用いたレシピの普及などにも力を注いでいます」と諸井社長。料理研究家などに依頼することもある、と言いながら、「一番詳しいのは家内です」と笑った。
メトロガイド
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
ハタハタ禁漁を聞いたとき驚きました。秋田県内にはハタハタ漁だけで(ほぼ)生活してる猟師さんもいるそうなので、当時は大変だったんだろう、当然揉めただろう、と秋田県県庁の方に当時の話をお伺いしようとしたところ……違うんです、基本姿勢が。「ハタハタを守るために」みたいなのが根底に流れているんです。秋田の方々の自然に対する姿勢を垣間見ました。

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