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研究者が力を発揮できる環境つくる“キーマン”を知っていますか?

リサーチ・アドミニストレーター、実績続々も処遇は
研究者が力を発揮できる環境つくる“キーマン”を知っていますか?

研究戦略のワークショップで議論するURA

 大学や研究機関で研究のマネジメントを手がける「リサーチ・アドミニストレーター」(URA)の活躍が目立ってきた。研究プロジェクトの企画や運営、成果活用を担う専門職であり、論文の被引用数といった研究関連データを分析する「インスティテューショナル・リサーチ」(IR)の役目を負う例も増えている。研究者が研究で力を発揮できる環境をURAが整備することで、支援案件の具体的な実績値アップが出はじめている。

実績続々と 意図をくんだ分析カギ


 URAの育成・活用が本格化したのは、文部科学省が2013年度に始めた支援事業「研究大学強化促進事業」による。研究力強化に向けた活動全般が対象だが、担い手となるURAの人件費を用意して後押したことが大きい。

 これにより事業に採択された22機関のURAの数は、16年度で計476人になった。この人件費は、同事業と各機関とで分担して手当てされる。

 17年度の中間評価で注目された成果の一つは自然科学研究機構が手がけた、プレスリリース発信プラットフォーム「ユーレックアラート」の日本用ポータルサイトの開設だ。これにより、各大学のURAらが英文プレスリリースを世界に発信する流れを導いた。

 

人文系にも拡大


 また京都大学は、URAの支援を受けられる対象者を理系に限定せず、人文・社会科学系にも広げた。URAが同分野の科学研究費助成事業(科研費)の申請書作成など助けた案件は、7割と高率で採択された。

 広島大学では教員の教育研究活動情報を一元管理して給与や昇格に反映させる全学のシステムの活用にURAが関わった。スター研究者だけでなく、中間層のやる気を引き出すため、ポイントの積み上げで処遇向上につながるように設計した。

 システム活用後、広島大は材料科学の論文の半数を研究者の上位17%で生み出すことができた。以前は11%程度に留まっていた。地球科学も6%から13%となり、研究者層を厚くすることができた。これらのデータ分析もURAが手がけた。

 

ノウハウ伝授


 17年12月に東京で開かれた「研究大学コンソーシアムシンポジウム」中で、URA向けに「大学の研究力分析と研究戦略提案を、URAが研究担当理事に求められた」という設定のワークショップが開かれた。

 論文や研究スタッフのデータを他大学と比較するIRの手法と、理事役モデルへの面談とを組み合わせ、URAはグループでリポート作成に臨んだ。

 ワークショップをリードした大阪大学経営企画オフィスの藤井翔太講師は、まとめで「理事自身が内容を整理できていないことも多い」と状況を指摘。その上で「URAが早めに面談し、本当の意図をくみとって分析することが大切。それが理事や学長の次のアクションにつながる」とノウハウを伝授した。面談前にデータ分析をしてしまうと、理事が言葉にしきれていない思いや希望を引き出せなくなるのだという。

 国立大改革の一環で各大学が方向性についてそれぞれ「世界」「特色」「地域」を選んだように、各大学は個別の役割や機能を模索しつつある。しかし利益追求の企業とは異なり、大学の構成員の価値観は多様だ。それだけに「何のために」が明確でないと改革はおぼつかない。「目指すべき方向性を全学で共有するために、URAができることがある」と藤井講師は強調する。

キャリアパスの確立が重要


 今後の課題は、10年間の文科省事業終了後に自立的な運営ができるかということと、URAのキャリアパスを確立することだ。これに対して例えば早稲田大学は“研究の事業化”によって、URAの人件費や活動費を確保しようとしている。

 研究の事業化は、外部からの研究費は一定割合が「間接経費」として全学の活動に使えることに注目し、「資金を集める事業として研究を位置付ける」という意味だ。

 同様の意識は国立大にもあるが、「私立大の収入の多くを占める学生納付金は、研究ではなく教育に使うべきものだ」と早大の石山敦士理事は説明する。外部資金で研究・研究支援体制を動かすモデルは、私立の研究型大学こそ重要だと意識している。

任期なしに転換


 URAは新職種だけに任期付きの雇用が多いが、任期なしへの転換も出ている。阪大ではURAの1人が副学長に就く事例が出て、URAの知名度向上とキャリアパスの魅力の双方から注目を集めた。阪大の八木康史理事は、「教授、准教授、講師、助教からなる教員と同様に、URAも大学によらず4職位に統一できないか」と呼びかける。そうなれば教員と同様に、機関を異動しながらキャリアアップする道筋ができるはずだ。

 同事業は10年間のちょうど折り返し地点にある。前半を上回る成果を大学、そして社会が実感できる活動が、URAの真の定着を決めることになる。
(編集委員・山本佳世子)
日刊工業新聞2018年1月11日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
「研究に注力したい」という研究者を支援するURAの存在は、研究型大学ではほぼ浸透したといえるだろう。しかし、有期雇用から無期雇用へのシフトを推進する、となると、話は既存の教員や事務職員の人件費と合わせて考えることになって悩ましい。 URAの処遇問題は、大学トップらが自校の強みや立ち位置、その中でのURA活躍の効果を評価し、思案し、決断していくテーマとなりそうだ。

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