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今年1年、乱気流に見舞われた「MRJ」

初の実機展示も、初のキャンセル
今年1年、乱気流に見舞われた「MRJ」

今年のパリ国際航空ショーでは初めて実機展示したが…

国産初のジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」。2015年11月11日に初飛行し、一気に期待が高まった。しかし…。この2017年は納入延期や初のキャンセルの可能性が高まるなど乱気流に見舞われた。来年こそ上昇気流に乗れるのか。1年を振り返る。

<1月>
 初号機の納入を予定していた2018年半ばから最大で2年程度延期されることになった。ローンチカスタマーとして採用を主導するANAホールディングスの片野坂真哉社長は「初号機の納入が20年半ばとなったことは非常に残念だが、万全なる準備の上、完成度の高い機体が納入されることを願っている」と話した。

<2月>
 三菱航空機の社長交代を発表。三菱重工業の防衛・宇宙ドメイン長の久和常務が社長に就き、親会社の主導体制が強まった。三菱航空機の社長は歴代、開発遅延に頭を悩ませてきた。三菱重工の宮永俊一社長は「これだけ大規模で複雑な開発ということになると、一航空機部門だけではやはり難しかった」と話した。

<5月>
 愛知県営名古屋空港(愛知県豊山町)近くの最終組立工場で、座席数76の「MRJ70」初号機など4機の製造工程を報道陣に公開。量産計画の見通しは立たないものの、開発、製造状況をアピールして世間の不安を和らげる狙ったもの。

<6月>
 「MRJ」に搭載する米プラット・アンド・ホイットニー(P&W)製のエンジン「PW1200G」が米国連邦航空局(FAA)の型式証明を取得、MRJの商業運航に向け、PW1200Gの信頼性が認められた。

<同>
 三菱航空機の水谷社長が「MRJ」の開発状況を説明。権限移譲を進めた航空機の開発経験を持つ外国人エンジニアについては、600人体制になっていることを明らかにした。

<同>
 「パリ国際航空ショー」で初めて実機を展示。ただ、航空ショーの華である飛行展示を実施しなかった。しかも新規受注もなし。水谷社長は「新しい注文を取るのはさることながら、実機を展示して開発作業がきちんと進んでいることを理解してもらうことが重要だ」と話した。

<8月>
 試験機のエンジン1基が損傷し停止、試験機は急きょ目的地を変更して着陸した。MRJの試験飛行中にエンジンが停止したのは初めて。

<11月>
 「MRJ」の実物大模型などを展示する施設「MRJミュージアム」(愛知県豊山町)が開館。MRJの最終組立工場の5階を展示スペースに利用し、操縦室や客室、エンジンなどを見て、MRJを体感できるようにした。

<12月>
 三菱重工業の宮永社長が記者会見で、「MRJ」の受注がキャンセルされる可能性に初めて言及した。米イースタン航空が発注した計40機(オプション含む)。宮永社長は計200機を発注している米スカイウエストなど「大きな注文を頂いているところからのキャンセルはない」と強調した。

<同>
 米ボーイングがブラジルの航空機メーカー・エンブラエルの買収に向けて交渉していることが明らかに。エンブラエルは近年、座席数100席前後の「リージョナル機」市場を席巻し、「MRJ」の最大のライバル。買収が実現すれば、ボーイングと深い関係にあるMRJ、ひいては日本の航空機産業全体にとって致命的な事態となりかねない。
ニュースイッチオリジナル
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
MRJの機体サイズが現在の70~90席クラスになった背景には「ボーイングとの競合を避けたい」という三菱重工の意図があったから。降って沸いたのがボーイングのエンブラエル買収構想。ボンバルディアがエアバスと、エンブラエルがボーイングと接近する中で、長年ボーイングの「下請け」として生きてきた日本の航空機産業の立ち位置が根底から揺らぐ可能性もある。納入を5回も延期し、開発費が当初想定の2倍を超す約5000億円に膨らんだMRJ。来年も逆風は続く、

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