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2期連続で減収減益に苦しむゼンリンが狙う次の一手は?

「2次元と3次元を統一した時空間データベースで情報の価値を高める」(高山社長)
2期連続で減収減益に苦しむゼンリンが狙う次の一手は?

高山善司社長

 2013年3月期から2期連続で減収と営業減益に苦しむ地図大手のゼンリンが、20年3月期を最終年度とする新中長期経営計画を策定した。「日本の地図をすべてゼンリン基盤へ」をテーマに、複雑・多様化する地理情報システム(GIS)の差別化で大幅増益を狙う。またカカクコムと資本業務提携して新規事業も模索する。反転攻勢に出る高山善司社長に戦略を聞いた。

 ―中期計画の株主資本利益率(ROE)は、15年3月期比3倍強の12%以上と強気です。
 「カーナビゲーションやスマートフォン向けサービスの変化は激しい。過去数年『時空間データベース(DB)』の整備費用がかさんだことで苦戦したが、先行投資は終わった。ROEは08年3月期に11・3%を実現しており心配していない。利益率の高い事業に投資して計画を実現する」

 ―地図情報の新たな利用価値創造を訴えていますが、消費者に分かりにくい面があります。
 「地図が2次元(2D)から3次元(3D)化することで属性を紙で表現できなくなった。今この場所に建物が完成しても、地図帳だと次に印刷されるまでそこに新しい建物があると分からない。統一した時空間DBで情報を素早く更新し、情報の価値を高める。市場が求める用途や商品開発にしっかり取り組む」

 ―自動車の自動運転技術に対応する高精度地図データの開発にも力を入れています。
 「すでに全方位カメラを使った3D地図データの作成を始めている。『先進運転支援システム(ADAS)』は20年頃に普及が始まると言われるが、もう少し時間がかかるとみている。90年に世界初のカーナビ専用ソフトを開発した時と状況が似ているが、今は当時よりもインフラが整っている」

 ―全国の主要な地方自治体と相次いで災害時支援協定を結んでいます。
 「横浜市や北九州市など6月末時点で137自治体と結んだ。基盤地図を無償提供することで災害時に迅速・正確な対応が可能になる。自治体は上下水道や不動産管理など、各部課ごとに小規模な地図情報を常時必要としているので、基盤地図をベースにした当社製品を利用頂くことで問題解決が図れる」

 ―カカクコムと資本業務提携した狙いは。
 「当社は位置情報を可視化する『面』としてのソフトウエア技術を持っている。一方のカカクコムは店舗など『点』の詳細情報を持つ。具体策はこれから詰めていくが、両社のサービスを融合した新規事業に期待している」

 【記者の目/次の一手が試金石】
 住宅や道路地図製作は今も歩行や走行調査が主流。約1000人のスタッフが集めたデータは全地球測位システム(GPS)より詳細だが、膨大なコストが必要。これを時空間DBに一元化し需給双方の使い勝手を高めた。3Dで整備されたGISはキラーコンテンツに生まれ変わった。強力な武器を手にしたゼンリンの次の一手が新たな成長に向けた試金石となる。
 (聞き手=北九州支局長・大神浩二)
日刊工業新聞2015年06月26日 電機・電子部品・情報・通信
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
時空間データベースはあくまで社内のシステム構築の話であって、具体的なアプリケーションとしてどのようなものが出てくるか。そこは外部とのアライアンスが重要になるが、そのためににもゼンリン自身が常に高い感度を持っておく必要がある。もともとのエンジニア力に加えマーケティングの機能をどこまで付加できるか。

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