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燃えるゴミの焼却灰から生まれた素材、用途がどんどん広がる!

技術で未来拓く・産総研の挑戦
燃えるゴミの焼却灰から生まれた素材、用途がどんどん広がる!

(上)原料の溶融スラグ(下)高比表面積シリカ

**溶融スラグ
 家庭ゴミなどの一般廃棄物のうち、いわゆる「燃えるゴミ」を焼却処理するゴミ清掃工場では、ゴミ焼却に伴って焼却灰が発生し、主に最終処分場に埋められている。焼却灰の減容化のために、焼却灰を高温で溶融させた後に水中で冷却し、「溶融スラグ」とよばれるガラス状固形物として回収する処理が広く行われている。

 現在、全国で年間約80万トンもの溶融スラグが、自治体などのゴミ清掃工場から発生しており、その一部は道路用のアスファルト骨材やコンクリート用骨材などの土木資材としての利用が図られているものの、さらなる有効活用の手段が求められている。

幅広く有効活用


 産業技術総合研究所は、ゴミ清掃工場から排出される溶融スラグを従来よりも幅広く有効活用するために、三井造船と共同で高付加価値材料を創り出す技術開発に取り組んでいる。

 溶融スラグを、特定の条件で酸性の溶液を用いて化学的に処理すると、溶融スラグ中に含まれるシリカ(SiO2)成分が、処理溶液に溶けない白色の固体として沈降する。この白色固体を濾(ろ)過などの操作で回収すると、純度93―98%を超えるシリカが簡単に得られることを発見した。

 このシリカの比表面積はおよそ1グラム当たり600平方メートルであり、高比表面積材料として市販されている合成シリカ材料と同等以上の値である。そのため、得られたシリカは、各種吸着剤、タイヤや合成ゴムなどの添加剤、触媒担体などさまざまな用途での応用が期待できる。

用途広がる


 開発した技術により、これまで用途が限られていた溶融スラグから、高比表面積シリカが得られた。これをさらにシリカをベースとする機能性素材へと変換することで、今後の溶融スラグの高度利用の可能性が広がる。また、現在、高比表面積シリカとして工業的に広く用いられているヒュームドシリカや沈降法シリカは、それぞれ四塩化ケイ素やケイ酸ナトリウムを原料としているが、これらはエネルギーを多く消費する工程で製造されている。

 これに対して、我々の技術による高比表面積シリカは、燃えるゴミの処理残さである溶融スラグを原料としているため、製造プロセスの省エネルギー化や二酸化炭素排出削減への貢献が期待できる。今後は、三井造船と共同で反応条件の改良とともに、製造のスケールアップに取り組んで、数年後の実用化を目指す。

【一言メッセージ/産総研触媒化学融合研究センター触媒固定化設計チーム主任研究員 深谷訓久】
茨城県生まれ。化石資源を原料とするのではなく、枯渇する恐れのない循環型資源である砂(SiO2)や二酸化炭素(CO2)を原料として、有用化学品を高効率に合成する技術開発に取り組んでいる。資源やエネルギーの制約に悩まされることのない社会の実現を目指して研究活動にいそしんでいる。
日刊工業新聞2017年12月28日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
ごみ総排出量、1人1日当たりのごみ排出量ともに減少傾向にあるようですが、それでもまだ一人あたり一日1キログラム程度のごみを出しているそう。

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