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「EV時代」見据えジェイテクトと三菱重工が工作機械で提携へ

車部品向け強化、次はコマツ系の動向に注視
「EV時代」見据えジェイテクトと三菱重工が工作機械で提携へ

両社で補完関係を築く(写真はジェイテクトの工作機械)

 ジェイテクトは三菱重工業と工作機械事業の提携協議を始めた。三菱重工子会社の三菱重工工作機械(滋賀県栗東市)への出資を視野に、2018年7月末の合意、正式契約を目指す。ジェイテクトと三菱重工工作機械はともに自動車部品向けの工作機械を得意とする。工作機械市場が活況の中、両社で補完関係を築き、さらなる成長を目指す。

 ジェイテクトの工作機械事業は研削盤が主力で、17年3月期売上高は1563億円。三菱重工工作機械の17年3月期売上高は365億円。合算すれば2000億円に迫り、工作機械業界首位クラスに食い込む。

 両社は自動車部品向けでも得意とする分野が異なり、協業効果が見込める。歯車加工機では三菱重工工作機械は工具まで一体で手がけており、ジェイテクトは工具のノウハウを取り込める。一方、三菱重工工作機械はジェイテクトが自社開発するIoT(モノのインターネット)システムや海外販売網を活用できるとみる。

両社の思惑は?


 ジェイテクトが三菱重工工作機械(滋賀県栗東市)との協業を模索するのは、自動車の部品加工ラインの強化が大きな狙いだろう。ジェイテクトはクランクシャフトをはじめエンジン部品向けの研削盤で世界首位級のシェア。三菱重工工作機械は変速機向けの歯車加工機が「圧倒的に強い」(業界関係者)と、補完関係が成り立つ。ジェイテクトは協業の狙いを「工作機械事業の業容の拡大」(広報部)とするが、自動車業界の電気自動車(EV)シフトへの備えとも読み取れる。

 「業界の見方はこうなんです」―。11月末に開いた記者説明会で安形哲夫ジェイテクト社長は、スクリーンに大写しになった棒グラフを見ながら説明した。グラフには2030年のゼロエミッション車(ZEV)の規模が全体の10%、プラグインハイブリッド車(PHV)と合わせても25%にとどまるとあった。EVが世界の主流となるような過熱気味の風潮にモノを申した格好だ。

 とはいえ、EVが拡大方向であることは同社も認める。自動車の総量次第だが、エンジンを搭載した自動車は減る方向だろう。エンジン部品向けの研削盤を工作機械事業の主力とする同社にとっては追い風とは言い難い。

 一方、三菱重工工作機械は変速機部品、詳細に言えば歯車を作る機械が主力だ。自動車の変速機以外にも、減速機向けなどで需要拡大が見込める。両社が合流すれば、当面はエンジン、変速機の両装置向けに加工ラインを品ぞろえする強みを発揮できる。EV時代には、歯車向けで成長路線を描くというストーリーが成立するはずだ。

 業容拡大も見込める。ジェイテクトはプレス金型などを加工する門型5面加工機、鋳物構造部などを加工する横中繰りフライス盤といった自社にない大型機をそろえられる。航空機業界などにもアプローチしやすくなる。

 一方、三菱重工業本体にとっては、長らく手つかずだった工作機械事業の再編で、構造改革の完成が確実に近づく。すでに18年1月1日付で造船とエンジニアリング事業の分社を決めた。三菱重工工作機械が属するインダストリー&社会基盤(I&I)ドメイン下の事業はすべて分社化することになる。

 I&Iドメインは、「選択と集中」を旗印に構造改革を加速してきた。単独での規模拡大が難しい事業は統合や資本・業務提携、事業売却など矢継ぎ早に手を打ってきた。
日刊工業新聞2017年12月25日
六笠友和
六笠友和 Mukasa Tomokazu 編集局経済部 編集委員
 三菱重工は工作機械部門を2015年に分社化しました。分社化は同事業の売却を視野に入れた判断と思われ、今回の協議入りを機に、ゆくゆくはジェイテクトが三菱重工工作機械の筆頭株主となり、グループに入れるのだろうと想像します。ちなみにジェイテクトは2008年に三井系の老舗工作機械メーカーで、やはり研削盤で有力な三井精機工業に追加出資し、同社の筆頭株主になっています。  ジェイテクトはトヨタ系の会社だけあって車部品向けの工作機械に大変強い会社です。三菱重工の歯車加工機を加えれば車向けの事業を大きく前進でき、さらに航空機や造船といった三菱重工が得意な車以外の顧客開拓につながるはずです。車部品の加工ラインの国内大手は他に、コマツ系のコマツNTCがあります。こちらもEVシフトで影響が大きいだろうクランクシャフトなどのエンジン部品に強く、さらに資金力がある会社だけに、強力な1手を打ってくるように思えます。

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