ニュースイッチ

日本は働き方改革より「遊び方改革」に踏み出そう

伊能忠敬を手本にした遊民経済学とは?
 2月に始まった「プレミアム・フライデー」が定着していない。業務が立て込む月末の金曜日だったこともあるが、否定的な意見で多かったのが、「お金がないのに遊べない」というもの。だが、本当に遊びたいことがあれば、休暇を取ってでも遊ぶだろう。

 プレミアム・フライデーがいまいち盛り上がりに欠けるのは、有給休暇の消化率が低い日本にあって多くの日本人が遊び方を知らず、早く退社しても何をしたらよいか分からない、ということが原因ではないだろうか。

 日本経済は今、必要性の経済学から一歩抜け出して、「遊民経済学」へと踏み出すべき段階にあると考えている。遊民経済学とは、安くて良い製品を作ることにたけていた日本経済が、遊びを軸とするサービス産業中心の経済に生まれ変わることを指す。

 成熟した自由主義経済の中で、世界有数の金融資産を持ちながら、かつ、高齢化が進む日本は、遊民経済学の先頭を切って走る資格がある。

 遊びは今後、経済活動の中心になる。その最たる例が、訪日外国人の拡大だ。今でこそ、訪日外国人による観光消費が、日本経済を下支えするものと期待されている。

 だが、観光業が成長産業の一つであるという認識が定着したのは、ごく最近のことだ。日本経済は長らく製造業が中心で、観光などのサービス業はあまり重視されてこなかった。

 日本で観光業を盛り上げていく中で課題だと感じるのは、地方自治体などで観光に携わる人々が、自ら外に出て、旅行をしてないということ。

 遊ぶことが苦手な日本人の国民性を現す良い例だが、観光は双方向であることが非常に重要で、観光客を誘致する人が、自ら旅行をするようでないと、観光客のニーズは分からないはずだ。

 遊民経済の象徴的な例として、江戸時代に日本全国を測量し、地図を作った伊能忠敬を挙げたい。伊能忠敬は入り婿として商売で財を成し、隠居した後に偉業を成し遂げている。

 暦学に興味があった伊能忠敬は、隠居後すぐに、自分より20歳近く若い学者に弟子入りし、私財を自由に使いながら研究を進め、趣味を国家事業にまで発展させた。退職後、楽しみながら資産を使い、社会の役にまで立った伊能忠敬は、遊民経済の大先輩だ。

 定年退職後の時間は非常に長い。この時間をどう使うか、準備を始めるのは早い方がいい。今の日本にとって必要なのは「働き方改革」よりも、遊民経済学を前提とした「遊び方改革」ではないかと思う。

 プレミアム・フライデーもコンセプトを遊び方改革にして、日本人の遊びの幅を広げ、高齢者の遊びがもたらす経済の拡大に備えることが、日本経済の活性化に直結するのではないかと考える。
(文=双日総合研究所チーフエコノミスト・吉崎達彦)
日刊工業新聞2017年12月18日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
人生100年時代ではないが、退職後に困らない蓄えがあるように稼ぎたいのか、それとも、自分で仕事を作れるような準備をするのか。それによっても、会社との関係・働き方が変わってくる。ここで指摘されている「遊び」とは、自分の暮らしをどう作るのか、自分と社会との関わりをどう作るのか、ということでもあるのではないか。

編集部のおすすめ