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17の目標が迷路のように中でつながているから、「SDGs」は面白い

アサヒGHD、肥料材料の製造が経営ビジョンと一致
17の目標が迷路のように中でつながているから、「SDGs」は面白い

ビール酵母細胞壁由来の肥料を散布。根を張る力を引き出し、成長を促進

 アサヒグループホールディングス(HD)は3月、肥料材料を製造する「アサヒバイオサイクル」を設立した。材料は肥料会社へ販売し、最終的に農業やゴルフ場の芝の管理で使われている。ビールや飲料水を手がけるアサヒグループHDの事業領域とは異なるようだが、経営ビジョンと合致する。

 肥料材料の原料はビール酵母の細胞壁。酵母自体は栄養価が高く、胃腸・栄養補給薬「エビオス錠」、調味料、家畜飼料として販売してきた。酵母はビール醸造工程で取り除かれるが、捨てずに商品化することで新しい価値を生んでいる。

 細胞壁にも着目し、農業に使う研究を2004年に始めた。与えられた植物は根を張る力が引き出され、成長が促される。稲ではコメの収穫量を40%増やした事例がある。ゴルフ場の芝も丈夫になり、園芸のプロも重宝しているという。

 新会社設立の理由の一つとして、アサヒバイオサイクルの御影佳孝社長は「CSV(共有価値の創造)の実現」を上げる。CSVとは課題解決で社会的価値を生み、事業も成長させる経営思想。アサヒグループHDが経営戦略としている。

 ビール酵母由来の肥料材料は、人口増加に伴う将来の食糧不足の解消に役立つ。また、根がしっかりと張った植物は雨量や日射、気温の変化に強く、気候変動が進んでも食糧供給に貢献できる。社会価値創造と利益を両立できる事業と見込まれ、新会社となった。

 アサヒグループHDは、中期経営計画の重点課題の一つに「サステナビリティーの向上を目指したESG(環境・社会・企業統治)への取り組み強化」を掲げている。CSR担当の火置恭子マネジャーは「アサヒらしいCSVが本筋」と事業との一体感にこだわる。また「SDGs(持続可能な開発目標)に当てはめると、取り組む意味が明確になる」と解説する。

 国連はSDGsで社会課題をニーズとし、技術革新を起こすように企業に要請した。そして17の目標はバラバラではなく、関連していると説明する。酵母細胞壁を肥料材料にできた技術革新(目標9)は食料(同2)、気候変動(同13)、持続可能な生産・消費(同12)達成へとつながる。

 御影社長も新会社の役割を再認識した。「SDGsは新しい取り組みを広げ、成長のきっかけにできる。SDGsを読んで会社の方針を立てやすくなった」と語る。SDGsがアサヒらしい新規事業を加速させるようとしている。
日刊工業新聞2017年12月12日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
日刊工業新聞での「SDGsとビジネス」の連載、今年はあと2回の掲載です。SDGsへの関心が高く、取材希望をいただきました。以前にインタビューで紹介した国連広報センターの根本さんは「SDGsは17つのどの目標からでも入れる。間口が広い」。「1つの目標から入っても迷路のように中でつながている」と話していました。アサヒの肥料事業は技術革新(目標9)、食料(目標2)、気候変動(目標13)、持続可能な生産・消費(目標12)といくつもの目標と関連しています。しかも社会に価値を提供しながら、利益も出て事業として成立します。来週の火曜日の「SDGsとビジネス」(9)も、興味深い事例です。

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