ニュースイッチ

パナソニック、“家まるごと提供”はなぜ挫折した?

組織と事業に乖離、「住宅」戦略見直しへ
パナソニック、“家まるごと提供”はなぜ挫折した?

「『住宅』というくくりは、事業の実態と相当離れている」(同社幹部、公式ホームページより)

パナソニックは、車載機器事業と並ぶ成長領域に位置付けた住宅関連事業の戦略を見直す。住宅担当の社内カンパニー「エコソリューションズ(ES)社」は、国内の新築戸建て市況の回復遅れや太陽電池市場の縮小などにより、2013年度のカンパニー制導入時に描いた成長を果たしていない。18年度までに「住宅」という事業領域も見直す考えだ。

 「『住宅』というくくりは、事業の実態と相当離れている」。パナソニック専務執行役員の北野亮は、社長を務めるES社の領域定義の限界を認める。ES社の中核は、旧松下電工が手がけた住宅設備や配線器具、建材、照明が担う。これに換気扇や介護、自転車、旧三洋電機の太陽電池といった幅広い事業と、10月に完全子会社化した住宅メーカーのパナホームが加わった。

 度重なる事業の入れ替えにより、母体だった旧松下電工の出身者(国内単体)はES社人員の43%まで減少。松下電工出身の北野自身が、17年4月のES社社長就任時に「ES≠(ノットイコール)電工」と宣言するなど、カンパニー色も変わった。

 08年以降、社名とブランドを「パナソニック」に統一した頃からパナソニックは住宅から設備、建材、家電まで「家をまるごと提供できる強み」を生かそうと、住宅に関連する事業をできる限り結び付けようとしてきた。

 ただ住宅や介護などは最終顧客一人ひとりに接するBツーC(対消費者)事業。一方、配線器具や建材、照明は代理店や工務店を通して広く販売するBツーB(企業間)の部材事業。向き合う相手とビジネスモデルが違うため“家まるごと”の実現は難しかった。

 北野は現在、ES社の事業領域を「家、街、社会、車、自転車を含む領域で、人の暮らしを快適にすること」と捉え直している。ES社売上高の約7割を占める部材事業と約2割のパナホームを中心に、従来の「住宅」にとらわれない戦略を描き直す考えだ。

成長狙う海外とパナホームの行方


 住宅関連事業の見直しに着手したパナソニック。成長の柱は配線器具や照明など部材事業の海外展開と、10月に完全子会社化した住宅メーカー、パナホームの進化だ。

 北野は「部材はグローバル化が最大のポイント」と力を込める。同社が「ISAMEA(イサメア)」と呼ぶインド、南アジア、中東、アフリカなどを重点地域に位置付けた。

 配線器具と太陽電池を担当する執行役員兼ES社副社長の品田正弘は「特にISAMEAは2020年にかけて年率2割程度成長できる」と自信を見せる。

 配線器具、照明、太陽電池などの販売を伸ばすため、印アンカーエレクトリカルズ、トルコのヴィコエレクトリックといった現地大手を買収。ベトナムでは配線器具工場を増強中だ。部材を海外市場に投入し成長を牽引(けんいん)する。

 国内では配線器具に比べてシェアが低いキッチンやバス、床材などが課題だが、家電と連携し活路を開く。高齢化や少人数世帯の増加で変化する住宅需要を掘り起こすため、家電と住宅設備を融合した製品の投入を始めた。キッチンと家電の規格統一も進める。

 住宅関連事業の成長を支える二つ目の柱はパナホーム。今後、戸建て住宅のビジネスは、主戦場の木造分野に本格参入する。地場の工務店を中心に展開する木造部材事業「テクノストラクチャー」の利益相反を避け、手薄な首都圏に展開する。

 パナホームが弱い非住宅やマンションは、施工力を補うため、中堅ゼネコンの松村組(東京都千代田区)の買収を決めた。北野は「(将来は)大和ハウス工業のようなデベロッパーに事業領域を広げたい」と話す。ゼネコンの知見と施工力は、マレーシアなど海外にも活用できる。

 18年度に住宅関連事業の戦略を打ち出す。いずれはパナホーム、松村組など事業の近い子会社を統合する可能性もある。
(敬称略)

<関連記事>
これから“古い電機メーカー”はどうなるの?

数少ない白熱電球メーカー、100余年の生産に幕
日刊工業新聞2017年12月5日/6日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
まとめたソリューションは、ユーザーが見えにくくなるリスクもある。個別プロダクトを強くしながら、どうのようにオールパナソニックの強みをいかしていくか。新たな戦略と組織体制を注視したい。

編集部のおすすめ