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20歳を迎えたプリウス。トヨタは“HV外し”の逆風を乗り切れるか

20歳を迎えたプリウス。トヨタは“HV外し”の逆風を乗り切れるか

初代「プリウス」(97年10月14日の発表会)

 トヨタ自動車が開発した世界初の量産型ハイブリッド車(HV)の初代「プリウス」が、10日で発売から20年の節目を迎える。エンジンとモーターを併用する新たな技術でエコカーの地平を開いたトヨタ。世界各地の環境規制の強化と“HV外し”の状況もある中、これまで積み上げた経験や真の実力が試されている。

先駆者の自信


 プリウスはラテン語で「先駆け」の意味。「21世紀のクルマをつくる」「トヨタのクルマづくりを変える」というミッションの下、クルマ社会の課題の中から「資源」「環境」の解決をテーマに選んで開発に着手したのが初代プリウスだった。

 プロジェクト名は「G21」で1993年秋にスタート。初代プリウスの開発責任者を務めた内山田竹志会長は「21世紀の課題である資源・環境問題に答えを出すために圧倒的な燃費性能のクルマをつくるなら、(燃費性能を)2倍くらいにしなければいけないのではないか」という当時の社内議論を振り返る。

 そのため「従来の技術の延長線上にまったく答えがなく、当時も技術としては知られていたハイブリッド技術を導入しないと燃費性能は2倍にはならない」(内山田会長)と判断。世の中に約80種類あったハイブリッド技術を机上検討で約20種類に絞り込み、東富士研究所(静岡県裾野市)で開発したシミュレーターを駆使し、コストなどのバランスも考えて一つを選んだ。

 エンジンや変速機などのパワートレーンなどで試作なしで役員に提案したのは異例だったが、95年5月に承認された。しかし、同年11月に完成した試作車は49日間動かず、ようやく走行しても500メートル程で止まるなど苦難の連続。99年の発売予定も1年前倒しで98年にという構想があったが、さらに1年前の97年12月の発売に変更されたため短期での開発を急いだ。
                   

「間に合った」「オタク」「普及しない」の賛否両論


そして「21世紀に間に合いました」というキャッチコピーをひっさげて97年10月14日に発表。同年12月10日に発売したプリウスには月間販売目標1000台を大きく超える受注が舞い込み、5―6カ月待ちとなったため増産投資を決めた。

 先進性ゆえ、海外競合他社の幹部がプリウスに乗る人を「オタク」とやゆすることもあり、「こんなものは普及する訳はない」と社内から反発の声も上がった。今では他社もHVを投入して普及期を迎えており内山田会長は「お客さまが『環境性能でクルマを選ぶ』という価値観の変化が起きた」とプリウスのもたらした影響を分析する。

 トヨタは現在37車種のHVを、世界90カ国・地域以上で販売している。累計販売台数は1100万台を超え、年間販売は約140万台に達する。20年かけて磨いたHV技術はプリウス以外の車種への展開のほか、プラグインハイブリッド車(PHV)や燃料電池車(FCV)、電気自動車(EV)とも共有する。

 トヨタは究極のエコカーと位置づけるFCVを14年12月に世界で初めて市販し、次のエコカーの本命と表現するPHVでは2代目「プリウスPHV」を17年2月に発売しているが、EVの量産車種は現在のところない。そのため、EVでは出遅れているイメージを持たれがちだ。

 米国のカリフォルニア州が販売台数の一定比率でゼロエミッション車(ZEV)を求めるZEV規制では18年からHVが除外され、中国が19年にも導入する新エネルギー車(NEV)規制でもHVは対象外にするなどHVへの風当たりが強い国や地域も出てきた。

トヨタ幹部は「21世紀はエネルギーの多様化の時代。パワートレーンもさまざまなタイプが共存し、なにかに集約されるというものではない」と強調する。HVで培った基盤技術をどれだけ生かし切れるかが、トヨタの将来を左右する。
「プリウスPHV」をプレゼンする内山田会長(17年2月)

数十の「世界初」 全固体電池で革新


トヨタはHVをはじめとする電動車両の中核技術として「モーター」「インバーター」「電池」の3要素を掲げ、それぞれ初代「プリウス」の発売から20年間にわたって性能の向上とコストダウンを進めてきた。

 まずはモーター。小型軽量化を進めたことなどで、4代目プリウスでは初代と比べ回転数で、約3倍の毎分1万7000回転を実現。体積当たり出力を4倍に高めた。

 電池からの電力をモーターに伝えるインバーター(パワー制御ユニット)も大幅に改良した。4代目と初代で出力密度では実に2・5倍の差がある。昇圧コンバーターの採用などが主なブレークスルーのポイントだ。

 電池開発では3代目まではニッケル水素電池のみを採用。電池の高出力化、小型化に加え、周辺部品や制御ユニットの小型・軽量化も進めた。4代目は車のグレードに応じニッケル水素電池とリチウムイオン電池の2種類を用意し、出力と容量のバランスを取った。

 これら20年間で実用化した技術の中には数十もの「世界初」が含まれる。モーター、インバーター、電池の3要素を自前で手がけて高度化しつつ、サプライヤーと一体でのコストダウンが現在のHV市場を席巻するトヨタの足元を支えている。

PHV、EVなど普及のカギは「電池」


一方、世界各国で排ガス規制やHV以外の代替エネルギー車普及に向けた規制が強化されつつあり、トヨタには“向かい風”が吹く。今後はHVに続く環境車としてPHVやEV、FCVを本格的な普及商品として育てる必要性に迫られる。

「モーターやインバーターの改良には限界もある」(トヨタの技術幹部)中、次世代エコカーを普及させる鍵となるのは電池の革新だ。トヨタの安部静生常務理事は「20年間培ってきたHVシステムや部品は基本的にそのまま使い、変化が大きい電池の開発に注力する」と話す。

10月下旬の東京モーターショーでトヨタのディディエ・ルロワ副社長が20年代前半の実用化目標を明言した全固体電池。電動車両の航続距離を伸ばし、充電時間の大幅な短縮にもつながると期待される。同電池の試作品はすでに完成し、技術者200人以上の体制で量産に向けて開発を急いでいるという。

電池性能が上がればEVに限らずPHVやFCVの性能向上も可能だ。トヨタは全固体電池以外にもマグネシウム電池や複数の材料を研究するほか、環境技術などで業務提携する独BMWとはリチウムと空気(酸素)を反応させる「リチウム空気電池」も共同研究している。電池開発に携わるトヨタ幹部はこう表現する。「リチウムイオン電池の後継としてさまざまな材料を研究する中で、実用化に一歩前進したのが全固体電池だ」
                   

(文=名古屋・今村博之、同・杉本要)
日刊工業新聞2017年12月8日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
今年吹き荒れた「EVシフト」は欧州勢の「脱・ディーゼル車」、中国の「EV大国化」といったマーケティング戦略によるところが大きく、技術的に何かブレークスルーがあったかと言われれば難しいところではないでしょうか。トヨタの電動化戦略を取材すると、磨いた技術をさらに磨き、少しずつ改善してきたという歴史が分かりました。こういうステップバイステップの改善こそ日本企業の得意とするところ。今後は電池の進化に期待です。でも一方で「トヨタは大丈夫か」という意見も確かに多く聞こえてきます。脳裏にはやっぱり、携帯電話やテレビ産業の淘汰がよぎります。

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