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トヨタにホンダに川重…。人型ロボットの開発が再加速し始めた!

競技会での転倒から2年、「世界で戦えるヒューマノイドを作りたい」
トヨタにホンダに川重…。人型ロボットの開発が再加速し始めた!

ダンベルを持ち上げる川重のヒューマノイド

 産業界でヒューマノイド(人型ロボット)の開発が広がっている。ヒューマノイドはロボット技術の最高峰だ。長年、優秀な人材を集めてきた。だが2015年に米国防高等研究計画局(DARPA)が開いた災害対応ロボット競技会「DRC」ではロボットが次々に転倒した。最先端技術と人材を集めてもなお、人体の繊細で俊敏な動きには及ばず、事業化は遠いとされてきた。それから2年。トヨタ自動車や本田技術研究所、川崎重工業が開発機を発表し、大学の研究者も民間の技術者も沸いている。

 トヨタは全身遠隔操縦型のヒューマノイド「T―HR3」を開発した。操縦者が外骨格式操縦システムを装着すると、肩や肘などの関節の動きやトルクを測り、ヒューマノイドが動きを再現する。操縦者はヒューマノイドが感じる力を感じ、分身のように操れる。

 トヨタの玉置章文パートナーロボット部長は「T―HR3をそのまま日常生活に導入することは難しい。だがT―HR3を実現させた技術はあらゆる分野に展開できる」と説明する。

 例えばT―HR3の操縦システムは上半身のリハビリに有効だ。システムを介してリハビリ用の動作を教えつつ、身体の動きや力を精密に測れる。リハビリ効果を解析し、個人に合わせたメニューを組むためのデータが得られる。

 玉置部長は「目の前の課題を解決するロボット開発は当然やる。ただ、それだけでは蓄積できない技術がある。ヒューマノイドは長期の技術開発を引っ張る最良のテーマ」と強調する。

 本田技術研究所は災害対応を目標にヒューマノイドを開発する。階段では腰を反転させ、膝が人間の逆に曲がる鳥脚で登る。がれき上は両腕をついて4本脚で歩く。屋外や雨でも動けるよう防塵防水機能も実現した。

 川崎重工業は東京大学とヒューマノイドを開発した。産業用ロボのモーターを利用してコストを抑え、メンテナンス性を高めた。モーターの回転を直動に変換し、人体の筋肉のような動きで身体を動かす。東大の垣内洋平特任講師は「転倒しても壊れにくい」と説明する。

 さらに油圧と電動を組み合わせて衝撃に耐える関節機構も開発。今後、ヒューマノイドに搭載して、より耐久性を高める。

 民間企業が製品として機体を提供すると研究全体が加速する。産業技術総合研究所の金広文男ヒューマノイド研究グループ長は「機体開発は体力のある組織でなければ続けられなかった。1台しかない機体を壊さないように実験するのと、機体を壊れるまで酷使して実験するのでは研究のスピードがまったく違う」と指摘する。

 さらに機体が安定供給されることで、用途開発やコンテンツ開発が促される。機体を持たない複数の組織が同じ方向を向いて長期投資できるようになる。

 川崎重工の掃部(かもん)雅幸課長(神戸大学客員准教授)は「オールジャパンで進めたい。センサーや操縦インターフェースなど、大学や企業が得意技を持ち寄り世界で戦えるヒューマノイドを作りたい」と展望する。
(文=小寺貴之)





日刊工業新聞2017年12月1日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
ヒューマノイド界隈では「このままでボストン・ダイナミクスに追いつけるのか」という危機意識があります。大学研究室がボストン・ダイナミクスと同じことをやっても、機体を壊して直して、改良するサイクルが遅く、まったく追いつけない状況にありました。そこに川崎重工が機体供給をコミットしました。値段はわかりませんが、大学が作ってきた特注機よりは安くなります。制御やユーザーインターフェースなど、ソフトウエアの先生にとっては朗報です。壊れにくいので、自分の技術を試して改良しやすくなります。改良サイクルは追いつくかもしれません。

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