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12月17日に宇宙へ。金井宣茂さん「“宇宙酔い”実況中継したい」

ツイッターやブログで実験内容をわかりやすく
 国際宇宙ステーション(ISS)への出発が12月17日に迫った宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙飛行士の金井宣茂さん。さらに野口聡一さんの3度目の宇宙への挑戦も決まった。これまでも多くの日本人宇宙飛行士が誕生し、ISSやスペースシャトルなどで活躍、日本の宇宙開発の可能性を広げてきた。宇宙での経験を地上や今後の宇宙開発でどう役立てるのか。歴代の宇宙飛行士に話を聞く。初回は金井さん。

―宇宙飛行士になったきっかけは。

「海上自衛隊で潜水医学を学んでいた。その際に、極限環境という意味で深海と宇宙に共通項があるのではないかと思っていた。深海について勉強する中で、この知識を有人宇宙活動に生かせるのではないかと考えた」

―現在、訓練の最終段階ですね。

「ISSでは『火災』『減圧』『アンモニア漏れ』を3大緊急事態と呼ぶ。こうした事態の発生を想定し、手順書通りに対応する。例えば空気漏れが起きた際には対象のモジュールの閉鎖などを行う。これにはチームワークが重要で、専用の訓練があるほどだ」

―現在のISSでの活動で最も関心の高いものは。

「医師のバックグラウンドをうまく科学実験の成果に役立てたい。創薬につながるたんぱく質の結晶化やマウスの飼育などの生物学実験に携わりたいという思いは強い。さらにツイッターやブログを利用し、実験の内容や意義をかみ砕き、地上の人たちにうまく伝えたい。実験内容の理解を深めるため、ISSでの実験の担当研究者を訪問し、ヒアリングしている」

「宇宙滞在時の自分の体の変化も伝えたい。宇宙では遠視になるらしい。メガネなしで過ごせるのか楽しみだ。また“宇宙酔い”というのは地上で逆立ちしているようなものだと聞くが、本当にそうなっているのかを実況中継したい」

―日本の宇宙技術は世界にどのように貢献できるでしょうか。

「水再生や環境制御などの技術は将来の宇宙探査に欠かせない。こうした技術は地上でも災害地や離島、紛争地でも役立つ可能性があり、国際的に日本の存在感をアピールできると思う」

「また宇宙飛行士の活動をサポートする撮影ロボット『イントボール』がISS内で稼働中だ。宇宙開発を有人と無人とで分けて議論することがあるが、実際にはロボットと協調して作業することが重要だ。ロボットが人に混じり働くモデルケースにISSがなれば良いと考えている。宇宙だけで完結せず、地上に成果を還元し、イノベーションの創出につなげるべきだ」

ISSの緊急事態対処訓練を行う金井さん(NASA/JAXA提供)

【略歴】かない・のりしげ 02年(平14)防衛医大医卒、同年海上自衛隊入隊。09年JAXA入社、11年ISS搭乗宇宙飛行士に認定。東京都出身、40歳。
日刊工業新聞2017年11月17日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
金井さんは医師の経験を生かし、科学実験の遂行に熱意を見せ、一般の人に実験を分かりやすく伝えることを自らのミッションとして課している。ISSの運用自体は24年で終わる予定。金井さんは今後の“ポストISS”において宇宙での経験を次世代に生かしたい考えだ。ISS滞在の蓄積が日本の将来の宇宙開発にどう反映されるか楽しみだ。 (日刊工業新聞社 編集局科学技術部 冨井哲雄)

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