ニュースイッチ

ダイバーシティの目玉人事が一転、役員逮捕という事態にどう対応するのか!?

トヨタ自動車の豊田章男社長、常務の逮捕受けて緊急会見
 トヨタ自動車の豊田章男社長は19日、常務役員のジュリー・ハンプ容疑者が麻薬取締法違反容疑で逮捕されたことを受けて、都内の東京本社で記者会見を開き、「世間をお騒がせすることになり、誠に申し訳なく思っている」と陳謝した。逮捕からわずか1日で豊田社長自らが会見するのは異例の対応といえる。目玉人事として登用したハンプ容疑者の問題だけに、事実関係は不明な段階だが、トップ自らが説明する必要があると判断したとみられる。

 豊田社長は「私にとっても会社にとってもかけがえのない仲間だ。捜査を通して法を犯す意図がなかったことが明らかになると信じている」と述べ、ハンプ容疑者を擁護する姿勢も示した。

 ハンプ容疑者は4月にトヨタ初の女性役員として就任。トヨタが進めるダイバーシティー(多様性)の目玉人事の一つで広報を担当していた。登用の理由について「人柄だ。性別や国籍にとらわれず、適材適所で現場を任せられる人を選ぶという方針の中で任命した」と説明した。今後も適材適所で人材の多様性を進めていく方針に変わりはないとの考えを強調した。

 一方で今回の登用について「真のグローバル化に向けた大きな決断であって、トヨタの変化点でもあった。会社のサポートが十分であったかどうか検証して、改善に結びつけていきたい」とも述べた。業務への影響について「何もない。(支障が出ないように)一丸となってやる。心配はない」と話した。

 ジュリー・ハンプ常務役員が麻薬取締法違反容疑で逮捕されたトヨタ自動車の対外的な対応は早かった。18日午前に滞在先の東京都内のホテルで警視庁に逮捕され、翌19日午後には豊田章男社長が東京本社で会見。逮捕直後でトヨタが把握する情報は限られ、捜査中のため発言する内容に気を配らなければならない中で緊急会見に踏み切った。

 トヨタには苦い経験がある。2010年1月に米国で公表したアクセルペダルに関する大規模リコールだ。08年に不具合を認識しながら公表しなかったと批判を浴び、豊田社長が米議会の公聴会に出席する事態となった。今回は翌日に会見を開き、トヨタが問題に真摯(しんし)に向き合い、適切な対応を講じる姿勢を態度で示した。

 トヨタは3月に初めてづくしの大胆な役員人事を発表。4月に外国人で初の女性役員であるハンプ容疑者が、6月には外国人初の副社長が就任した。米ゼネラル・モーターズ(GM)や米ペプシコで広報担当役員を務めたハンプ容疑者の登用は、トヨタが推進するダイバーシティー(多様性)経営の象徴でもあった。

 ハンプ容疑者も4月の就任会見で「身の引き締まる思い。ワクワクする」などと意欲的な発言をしていた。

 外国人の役員が日本に常駐するのはトヨタでは初めて。豊田社長は会見でハンプ容疑者の住まいやかかりつけ医師などを事例に「トヨタにとって初めての変化点。会社のサポートが十分であったかどうか」と述べ、事実確認と改善の意思を示した。

日刊工業新聞2015年9月22日付1/3面
清水信彦
清水信彦 Shimizu Nobuhiko 福山支局 支局長
 就任したばかりの初の女性役員が逮捕されるというのは、トヨタにとってまったく想定外の事態だったでしょう。  会社としての姿勢、トップとしての姿勢が問われたわけですが、とりあえず迅速に、豊田社長みずからが記者会見に出て説明するというのは、やはり危機管理の体制として過去の事例に学んだことが大きかったのだろうと思います。  しかし、逮捕自体はまったく個人的な問題で、役員一人ひとり、社員一人ひとりがどんな薬を飲んでるかなんてきわめてプライベートな内容について、会社は関知できないし、またすべきでないとも思います。  また、これからも人種や国籍、性別などのバックグラウンドを問わず、有能な人材を登用していくという流れは止めるべきではありません。というわけで、トヨタの会見は、多分すごく常識的な内容だったといえるのではないでしょうか。

編集部のおすすめ