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キリン、AIと技術者がタッグを組み新ビール開発期間を短縮

AIがビールを作るのではなく、あくまでお手伝い
キリン、AIと技術者がタッグを組み新ビール開発期間を短縮

ビール試作にはきめ細かいデータと長年の経験が必要という

 キリン(東京都中野区、磯崎功典社長、03・6837・7001)は、三菱総合研究所と共同で、ビール新商品開発技術者を支援する人工知能(AI)の開発に乗り出した。ビールは発酵工程があるため、試作品を作るにも数カ月を必要とする。一方で消費者の好みの多様化で商品数は増加し、開発期間短縮が喫緊の課題となっており、AI活用で課題解消に挑む。若手技術者の育成や熟練技術者の技能伝承にも、AIを活用する考えだ。

 「AIがビールを作るのではなく、ビールを作るのはあくまで人間。技術者の試作品の開発をAIがお手伝いするということ」。キリンR&D本部研究開発推進部の津田秀樹主査は強調する。

営業からの要請


 新商品開発は営業部門などからの「客の好みに合う、こんなビールを作ってほしい」との要請を元に、研究所の技術者が小規模ブルワリーで試作を繰り返し、麦芽やホップをはじめとする原料の配合や工程条件などを決める。熟練技術者だと営業現場の声を聞いて短期間でそれに近い試作ビールを開発できるが、経験の浅い若手技術者では無理だという。アルコール度数や水素イオン濃度(pH)、泡立ち、色合い、泡持ち時間といった目に見える指標以外でも、ビール製造にはさまざまな要素がからむためだ。

 味や香りにしても、実用に耐えるセンサーなどは「まだ開発されていない」(同)。“人間の味覚で、もっともおいしいと感じるビールは数値が5・7”などと数値化できれば開発はたやすいが、実際はもちろん、単純ではない。「人間の感覚で味と香りは複雑にリンクし、同じ味のビールを作っても香りが違えば味の感じ方は異なる」(同)。加えて、のどごしやコク、キレなどのビール独自の要素もポイントになるという。

データをAIに


 これらの条件をクリアする試作ビールの開発期間を縮めるのが、AI活用の要諦だ。キリンには過去のビール開発で培った、多くのデータがある。「それらのデータをAIに覚え込ませて傾向やパターンなどを分析し、開発期間を短縮できる」(研究開発推進部の高山知香子主査)とみる。

 AIは覚え込むデータがなければ、活用は難しい。「入力作業には1年半ほどかけ、ほぼ問題ないことがわかった」(高山主査)。醸造条件がこうなら、こんな味のビールができるというパターンをAIに学習させ、開発期間短縮に役立てる。

技能伝承に有効


 開発期間短縮により、浮いた時間をよりビールの改良や、技能伝承に生かす。津田主査は「若手技術者の研修や技能伝承にもAIは有効だ」と話す。研究開発にマニュアルはなく、若手にとっては試行錯誤だ。AIはそんな場合の手助けになる。

 クラフトビールの開発にもAIを活用する考え。クラフトビールはビールより複雑な味わいが多く、ホップの選択や漬け込むタイミング、時間などきめ細かい管理が必要だ。品質安定やコスト削減にメリットは大きい。
(文=編集委員・嶋田歩)
日刊工業新聞017年10月27日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
「AIを使って」という記事が毎日のように登場しますが、AIは万能ではなく道具だということを改めて感じます。

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