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ベトナム「9X」世代の就職、日系企業の優先順位が低いのはなぜ?

自分の人生を楽しむ個人主義強く。評価制度が明確な欧米やアジア系の外資へ
ベトナム「9X」世代の就職、日系企業の優先順位が低いのはなぜ?

SNSを利用し、欧米へのあこがれが強い9X世代

 「9X世代は、何を考えているのかわからない」―。日系企業に10年以上勤める7X世代のベトナム人の部長との会話でよく聞く言葉だ。ベトナムでは、世代ごとの呼び方を9X(90年代生まれ)や7X(70年代生まれ)と呼ぶ文化がある。

 日本も若者の世代を「ゆとり」「悟り」と例えるが、ベトナムでも世代間ギャップがある。若者は今後のベトナム経済活性化の中心的な存在となるため、9X世代を理解することは日系企業にとって非常に重要だ。しかし、ベトナム人でも世代間ギャップの理解に苦しんでいるので、日本人がそれを理解するのはさらに難しい。

 9X世代は戦争を全く知らない世代で、伝統的な生き方である家族主義よりも個人主義を重視し、人生をどう楽しむかを重視する。「自分の人生を楽しむ」という言葉が一般化したのはこの世代からだとされる。

 9X世代の多くは会員制交流サイト(SNS)を利用し、欧米への憧れが強く、日本への関心は食事とアニメのみ。日系企業への就職、転職希望者が多かった7Xや8X世代とは異なり、就職や転職の際は安定性が低くても英語が使えて給料が高く、評価制度が明確な欧米系やアジア系の外資企業を好む傾向があり、日系企業に対する関心は低い。

 一見、彼らは好きなことだけをやっているように見られがちだが、実はボランティア活動にはとても積極的だ。生きるのに精いっぱいだった7Xや8Xの世代とは異なり、世間体を気にせず全力でチャレンジする意欲を持ち、周りをサポートする積極性は他の世代から評価されている。

 一方、管理職が多い7X世代はベトナム戦争終戦前後に生まれ、個人主義ではなく家族や国全体でどう生きるかを価値観とする。海外旅行や留学の経験者はごく少数。集団や組織での行動が得意で、誠実で辛抱強い。

 また、親日度が高いため日系企業と相性が良く、技術大国、先進国として日本に尊敬の意とおもてなしの精神を持っている。いわゆる日本人が感じるベトナム人のイメージのど真ん中の世代だ。留学先も米国や日本より、当時ベトナムが恩恵を受けていたロシアや中国などが多い。この世代の優秀な日本語力を持つ人材は希少で、企業はつなぎ止めに必死だ。

 この二世代をつなぐのが8X世代。彼らはベトナムの発展の起点となったドイモイ政策と共に成長してきた。ベトナムの成長を体感し、親世代の大変さも理解しているので家族主義と個人主義の両方を持ち合わせている。日本への関心もまだ高い世代で、パスポート所持率も高く、留学や海外旅行にも積極的だ。

 ベトナムでは日本や日系企業の認知度や関心度は、世代が若くなるほど薄れていく傾向にある。今後、在ベトナムの日系企業はいかに7Xや8X世代のベトナム人を巻き込み、9X以降の若い世代に自社の魅力や強みを伝えながら、優秀な人材を採用するための努力をすることが成長のカギと言えるだろう。
(文=加藤将司 JACリクルートメントベトナム法人社長)
日刊工業新聞2017年9月29日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
日本企業が海外企業との間で人材の獲得競争に敗れる「雇い負け」がベトナムにもか。グローバル企業のようでも国籍や肌の色、文化的な背景などが個人の能力発揮の妨げになっているイメージがいまだ払拭できないとすれば、日本にとって大きな損失。世界的にみて大卒以上の20代から30代の外国人男女の就業意欲で、日本企業で「進んで働きたい」との考える人は極めて少ないという調査結果もある。

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