「環境目標」と「経営目標」が一体化し始めた!

相次ぐ「2050年 CO2ゼロ」宣言にビジネスチャンスの芽

 富士通は2018年度までに再生可能エネルギーの利用割合を6%以上にする目標を設定した。再生エネの導入拡大とともに、利用効率を高める蓄電池の制御技術の開発に取り組み、16年度末の5・2%(1億3300万キロワット時)から0・8ポイント以上増やす。

 50年には二酸化炭素(CO2)排出の実質ゼロ化を目指しており、再生エネの導入目標を定めた。

 また、16年度の環境活動の実績を公表し、事業での温室効果ガス排出量を13年度比9・4%削減した。各拠点でのエネルギー消費の監視やデータセンターの空調制御により、同1・6%増に抑制するとしていた目標を上回った。

日刊工業新聞2017年8月17日



投資家も日本企業を突き動かす


 2050年までの環境長期目標を作る企業が増えている。4月以降、リコー、富士通、コニカミノルタ、パナソニックなどが公表し、今月7日にはNECも発表した。しかも二酸化炭素(CO2)排出量ゼロを宣言する意欲的な目標が目立つ。規制が厳しくなる将来への危機感や、持続的に成長する企業を支援したい投資家からの要請が、高い目標設定に慎重だった日本企業を突き動かしている。

 NECは7日、工場や事務所でのエネルギー利用に伴うCO2排出量を50年までにゼロにすると発表した。省エネルギー化の徹底と再生可能エネルギーの活用で排出を減らす。

 削減しきれなかった残りの排出量は、他の場所での削減を自社分に加えられるクレジットを調達して打ち消し、実質ゼロにする。

 富士通の50年目標も同様で、省エネの推進、再生エネとクレジットの活用でCO2排出をゼロ化する。同社は途中の30年度に13年度比33%削減する中期目標も設定した。

 リコーとコニカミノルタはこれまでの50年目標を刷新した。リコーは50年のCO2排出ゼロに向け、再生エネの導入目標も示した。30年までに事業で使う電気の30%以上、50年には全量を再生エネ由来に切り替える。

 コニカミノルタは50年度に05年度比80%減とする目標に、取引先のCO2削減支援を加えた。省エネ手法を提供した取引先の削減量を、自社の排出量と同量以上とし、CO2を実質ゼロにする。

早めのリスク対策、技術開発で有利


 50年に照準を定めた環境目標の公表は、温暖化対策の国際ルール「京都議定書」の削減期間が始まった08年前後に一度、盛んになった。前回と今回との違いは、“排出ゼロ”というハードルの高い目標を掲げる企業が多いことだ。

 日本では実現の確証のない目標は公表を控えるのが普通だった。30年に13年比26%減とする日本全体の温室効果ガス削減目標も、政府は既存技術をできる限り導入した前提で導き出した。

 また企業には「経団連、業界団体よりも高い目標は言えない」との空気もある。業界団体は排出抑制が事業の足かせになるとし、厳しい目標に反対してきた。しかし現在は、個別企業の立場になると意欲的な目標を設定する“ねじれ”が起きている。

 NECの大嶽充弘執行役員常務は「50年の社会を議論する場が増えている」と、長期目標を作った背景の一つを説明する。京都議定書に代わる「パリ協定」は、今世紀後半に温室効果ガスの排出ゼロを目指す。国も将来の絵姿が必要となり、「50年80%減」の長期目標を策定した。

 50年の社会像を考えると、将来の経営リスクに気づく。富士通環境本部の金光英之本部長は「コスト上昇に備え、前倒しでの対応が重要と考える」とCO2排出ゼロを目標とした理由を話す。

 危機感を抱くのが、CO2排出量に課税する炭素税などカーボンプライシング(炭素の価格付け)の動向だ。中国で17年から排出量取引が始まるなど、世界で導入への機運が高まっており、CO2排出がコストとして経営の重しとなる可能性が出てきた。

 実際に同社のデータセンターのエネルギー消費量は年8%の勢いで増えている。カーボンプライシングを想定すると、数%の省エネではコストを抑える効果は薄い。大幅な省エネ技術の開発を社内に促そうと、CO2排出ゼロの高い目標を設定した。

 積水ハウスは08年に住宅にかかわるCO2排出ゼロを目指すと宣言。一方で石田建一常務執行役員は「マーケットリーダーになりたい」とし、宣言は「事業成長と連動した目標だ」と強調する。

 国は15年に「30年26%減」のCO2排出削減目標を決定し、このうち家庭部門を約40%減とした。エネルギー消費が実質ゼロの住宅(ZEH)を標準化する方針も決めた。

 積水ハウスは09年にCO2排出量を半減した住宅を、13年にはZEHを製品化済み。排出ゼロ目標を掲げたおかげで国の動きに先行できた。

 トヨタ自動車は15年に公表した50年目標でエンジン車を大胆に減らし、自動車に関連するCO2を90%削減すると宣言した。

 7日にはフランス政府が40年までにガソリン車とディーゼル車の販売をやめる方針を打ち出しており、トヨタは規制を先取りする形となった。長期目標を検討するために将来の市場変化を予測することで、リスク対応や技術開発で他社に先行できる。

金融業界からの要請、ESG投資呼び込める


 金融業界も環境長期目標を求めている。企業に長期目標づくりを提唱してサステナビリティ日本フォーラムの後藤敏彦代表理事は、「3年単位の経営計画ではESG(環境・社会・企業統治)投資に耐えられない」と指摘する。

 ESG投資は環境や人権への配慮、経営の透明性などを基準とした投資。ESGがしっかりしていると将来の環境規制に対応でき、不正を犯す恐れがなく、持続的に成長する力を備えていると評価できる。株式を長期保有したい欧米の年金基金などで広がっている。

 環境の長期目標がESGの要素となる。CO2削減目標があれば、カーボンプライシング導入時のコストを意識して経営していると判断できる。

 再生エネの導入目標は、将来の化石燃料価格高騰への対策と評価できる。長期視点で経営を支援してくれる投資家と対話するためには、環境長期目標が欠かせない。

 世界の産業界で急速に関心が高まっている「サイエンス・ベースド・ターゲッツ(SBT)」も、長期目標の策定を後押している。SBTは世界自然保護基金、CDPなど環境NGOが主導し、気温上昇を2度C未満に抑えるための科学的知見と整合した目標を承認する。

 世界では289社がSBTに賛同している。ソニー、コニカミノルタなど日本の7社の目標がSBTとして認められ、富士通、積水ハウスも承認を目指す。積水ハウスの石田常務執行役員は「SBTはグローバルにわかりやすい」と話す。

 環境目標の中身は企業の裁量に任されてきたが、SBTが注目され、社会からも納得してもらえる目標が求められている。環境目標は経営目標とは別と思われていたが、ESG投資の登場により、一体化が迫られている。今までにないほど、環境目標の重みが増している。
(文=松木喬)

江原 央樹

江原 央樹
09月09日
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 「地球の平均気温の上昇を2℃より十分下方に抑えること、1.5℃に抑える努力を追求すること等を目的とし、この目的を達成するよう、今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指すパリ協定」が、国連気候変動枠組条約締約国会議に参加するすべての国が参加する枠組みとして2015年12月に採択され、2016年11月に発効している。
 このような流れを受けて、世界的には、企業としてこれまでの国の地球温暖化対策に対する社会的責任を果たすためだけではなく、エネルギーコスト削減を目的とし、またそのための解決方法(ソリューション)自体をビジネスチャンスとしてとらえ、温室効果ガスを発生させない再生可能エネルギーの活用等を推進する企業が増えている。
 2016年11月にパリ協定を締結した日本は、2050年に2013年比80%以上の温室効果ガス排出量削減を目指しており、これらの流れを受け、本記事にあるように富士通をはじめ、トヨタ自動車、パナソニック、リコーなど日本の大手企業が2050年のCO₂排出量ゼロなどの定量的な目標を立てて取り組みを始めている。このような世界的潮流をビジネスチャンスに変えられるかどうか、すべての日本企業が問われている。

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