「マスコミを含めた全メディアがフェイクに敗北した」(津田大介)

「ポスト真実」の時代に必要なこと

 ―インターネット草創期の理想とはかけ離れプロパガンダや営利目的のフェイクニュースが飛び交う時代になりました。ネットはフェイクに敗北したのでしょうか。
 「マスコミを含めた全メディアの敗北だ。事実よりも発信者が誰かで情報を信じる『ポスト真実』社会になった。個人でもフェイクニュースを拡散させれば広告費を稼げ、極端な思想を広げられる」

 ―ポスト真実でファクトチェック(事実確認)の経済合理性が失われつつあります。フェイクニュースを防ぐ手だては。
 「もともと新聞やテレビなどのマスコミにとってファクトチェックは信頼の獲得、公平中立な立場を取ることは読者や視聴者の獲得につながった。そのためファクトチェックのコストを払ってきたが広告によるビジネスモデルが崩れた。悪貨が良貨を駆逐するようにフェイクが氾濫し始め、権力者もフェイクを利用している」

 「現在グーグルやフェイスブックなどのプラットフォーマーが世界最大の広告事業者であり、メディアだ。海外では受益者として責任が問われ、ファクトチェックを始めている。日本ではヤフーが対策を始めた。ただ一民間企業のさじ加減に任せて良いのか課題は残る」

 「解決策は四つ。まず人工知能(AI)など技術によるフェイクの初期消火。フェイクを拡散するアカウントは特定できる。二つ目は広告主の対応。情報をゆがめる発信元には広告を出さないことだ。次がフェイク発信元の情報開示だ。プロバイダ責任制限法が隠れみのになっているが、発言には責任を持ってもらうべきである。最後は地道なファクトチェックだ」

 ―米国は大統領選、欧州は英国の欧州連合(EU)離脱の論戦でポスト真実を経験したが、日本はネット世代と政治に関わる世代が離れています。日本人はポスト真実を何で体験しますか。
 「日本は数年、ポスト真実の状況にある。政治家がうそを押し通し情報操作する姿を見ているはずだ。ただ身近な事象として受け止められてはいない。一つは東日本大震災と原発事故だろう。信じていた安全神話が崩れ、原子力政策については推進派と反対派の議論はかみ合っていない」

 ―専門家や報道機関を批判する「〇〇たたき」がコンテンツとして成立しました。かみ合う議論自体が減っていると思います。
 「どんな状況でどんな発言したかすべてログが残る時代だ。文学で作家の生活や心境と作品が分析されるように批評家も審査される。人間は本来、学べば意見が変わる。だが意見が変わるとたたかれる。発言をすることがしんどい社会になった。中庸な意見は左右の極端な意見にたたかれ、マジョリティーがサイレントになった」

 ―自身のフィルターバブル(情報の偏向)がどれくらいゆがんでいるか個人には判断できません。
 「論点サイト『ポリタス』は『自分なりの判断基準ができた』と感想をもらう。多くの人にとって自分の意見はあやふやだ。さまざまな立場の専門家の意見を読むと、『これは違う』『賛同できる』と意見が明確になっていく。自身のフィルターバブルの外から自分の考えを見つめることが個人にできる対処法だろう」
(聞き手=小寺貴之)

【略歴】
津田大介(つだ・だいすけ)早稲田大学教授。98年(平10)早大社会科学部卒。ソーシャルメディアを利用したジャーナリズムを実践。09年インターネットユーザー協会設立、代表理事。NHK「NEWS WEB24」ネットナビゲーター、朝日新聞論壇委員などを歴任。17年早大教授。東京都出身、43歳。『「ポスト真実」の時代 「信じたいウソ」が「事実」に勝る世界をどう生き抜くか』(祥伝社)

日刊工業新聞2017年9月4日

小寺 貴之

小寺 貴之
09月04日
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 「発言をすることがとてもしんどい時代になった」と津田先生が嘆く現状にメディアの限界を感じます。有名になると炎上狙いでたたきに来る人もいて、記事や発言がほぼ読まれずに歪められて拡散していくことがあります。「文章は伝えたいことの9割は伝わらないと考えた方が良い」そうです。ポスト真実への対応策として津田先生は「信じられる人を分野ごとに複数人見つけること」といわれます。
 メディアでは信頼が組織から個人に移っていると実感します。組織に所属する人間としては、コンテンツの品質管理やコンプライアンス管理は組織でないとできないと思うのですが、顔の見えない組織のプロセスを信頼しろというのも難しい話です。ただ名が売れると「たたき」を呼び込むことになり、そのとき個人は心を保てるのかと思います。いまは組織や有名個人へのたたきがコンテンツとして成立していますが、いずれたたいていた無名個人への組織的なたたきがコンテンツとして成立します。たたかれても極化せずに、自身のフィルターバブルをメンテし続けることはとてもしんどいので、ポスト真実が加速しなければいいのですが。

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