ニュースイッチ

モノづくりのデジタル化、経産省が人材育成に予算

モデルベースなどカリキュラムの開発支援に1億円
モノづくりのデジタル化、経産省が人材育成に予算

米GEはモノづくりのデジタル化で先行(GEヘルスケア・ジャパン 日野本社工場)

 経済産業省は、デジタル関連の知識・技能を持つモノづくり人材の育成を促すため、カリキュラムの開発支援に乗り出す。開発費負担を軽減する事業を2018年度に開始する予定。IoT(モノのインターネット)が進展しモノづくりのデジタル化が進む中、製造データなどを現場で使いこなせる人材の層を厚くし、産業競争力を底上げする。18年度は5件程度を支援する計画だ。1件当たりの支援規模は最大2000万円程度になる見通し。18年度予算概算要求で1億円を要求する。

 業界団体や大学、企業などを対象にカリキュラム案を公募し、支援先を決める。企業の枠を超えて共通課題になっているテーマを中心に選定する構え。具体的には、IoT技術で集めた製造データの分析、ITツールを使った生産シミュレーション、モデルベース開発(MBD)のような次世代設計手法などを想定している。

 経産省が18年度からの受講開始を目指し創設した「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」とも積極的に連携する。同制度は大学や企業による職業訓練講座などを経産相が認定する仕組みだが、モノづくりのデジタル化に対応した講座がまだ少ないため、カリキュラム開発の支援により供給側を充実させる。

 製造業ではIoTの利活用などによる競争力向上が命題となっているが、デジタル関連のスキルと伝統的なモノづくりの知見を兼ね備えた人材が不足し、導入の障壁になっている。

日刊工業新聞2017年8月30日



「広島」をモデルケースに!


 広島県で中小企業を対象に高度なシミュレーションシステムの普及策が動きだす。県の外郭団体のひろしま産業振興機構(広島市中区)が10月に広島県東広島市に開設する「ひろしまデジタルイノベーションセンター(HDI)」で、スーパーコンピューターや解析ソフトに加え人材育成サービスを提供する。背景には地場大手のマツダがシミュレーションシステムを使った自動車開発に大きくかじを切っていることがある。

 「広島をモデルベース開発(MBD)の聖地にしたい」。HDIの所長に就任した安藤誠一氏は力を込める。安藤氏はマツダからの出向。MBDはシミュレーションを使った自動車開発のことで、安藤氏はその高度化に携わってきた。

 マツダは自動車技術「スカイアクティブ」の開発にMBDを活用し、短期間に多くの車種やエンジン・変速機などを市場投入することができた。特にエンジン開発部門でMBDの活用が進んでおり、ほかの部門にも広げるためエンジニアの育成を急いでいる。2016年に広島大学で開講した講座では、3年間で900人を受講させる計画だ。

 だが自動車の開発は自社だけではできない。地場の部品メーカーをいかに巻き込むか。そこで期待されるのがHDIの取り組みだ。

 HDIでは高性能ワークステーションを7台導入。加えて、外部のスーパーコンピューターをクラウド方式で使える環境を整える。特徴的なのが、各種解析ソフトや人材育成まで含めて提供することだ。

 スパコンで動く流体解析や構造解析などの高度で高価なソフトウエア、プレスや鋳造、樹脂成形といった生産シミュレーションソフトなど15種類を導入。それらを使いこなせるよう研修サービスも始める。年間150人程度の受講を目指す。

 至れり尽くせりの内容だが、こうした高度な計算環境の整備で、広島県は出遅れてきたという。「大学をはじめ部品メーカーやエンジニアリング会社にもMBDを使いこなす土壌ができれば、地場産業の育成にはきわめて有効」(安藤氏)。

 マツダには、いずれ車1台をまるごとシミュレーション環境上で開発できるようにしたいという構想があるようだ。部品メーカーも自らが担当する部品のデータを持ちより、車全体のデータを使って検証しながら、さらに部品の性能を高めていく姿を描いている。

 新しい時代の車産業サプライチェーン。広島県がモデルケースになれるか注目される。
                     

(文=広島・清水信彦)

日刊工業新聞2017年8月24日

八子知礼
八子知礼 Yako Tomonori INDUSTRIAL-X 代表
アナログなモノづくりからデジタルなモノづくりへの変換点で不足している人材育成をテーマ別に経産省が支援してくれるとはありがたい話。特にデータ活用とモデルベース開発は先例が十分ではないだけに教える方もひと苦労。海外事例を持ってきても日本のモノづくりにそのまま適用できるわけではないので、理論→事例→日本型への応用をトータルにカバーする必要がある。現場が腹落ちして取り組めることが必要な一方で、現場におもねってしまっては新しいモノづくりのモデルには届かない。バランスの良いプログラムが構築されることを期待したい。

編集部のおすすめ