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東京が刺激的と感じる人はどういう人か?

消費に刺激を感じる人は東京に、創造に刺激を感じる人は地方に
 ふるさとチョイスを運営するトラストバンクが東京在住者を対象に『地方移住に関する意識調査』行ったところ、2人に1人が地方移住に興味があると回答したことが話題となった。約半分の人が地方移住に関心を持っているものの実際に移住できるひとは少数で、ほとんどの人は関心を持ち続けながら今も東京で生活している。
 
 東京と地方の違いについての議論では、かなりの確率で「東京は刺激的で、地方は刺激が少ない」という話題が出る。東京の方が流行も最先端で、人も多いのでいろんな人と会えるので刺激を受ける機会が多いが、地方は東京で流行ったものが地方に波及してくるので流行も遅く、人が少ないので刺激を受けることが少ないということだ。

 東京は刺激的で、地方は退屈。これは何か社会で共有されている前提として話が進められることが多いが、本当に東京が刺激的で地方は退屈なのだろうか。私は4年前に宮崎県日南市に移住してきて、マーケティングの仕事をしている。日南の前は上海、北京、東京と1,000万人を超える大都市で生活していたが、日南市はその200分の1の5万人のまちだ。

 日南に来てから刺激が少なくなったかというと、実際は逆に地方の生活の方が何かと刺激的だ。東京では退屈なルーティーンの生活を繰り返していた人が日南に引っ越してきて、仕事もプライベートも充実して生き生きしている人もいる。

 「東京は地方よりも刺激的」という前提は必ずしも成立しない。東京の方が刺激的な人もいれば、地方の方が刺激的な人もいる。では、どのような人が東京に刺激を感じ、どのような人が地方に刺激を感じるのだろうか。

 東京に刺激を感じる人は「商業施設」「流行の飲食店」「ライブやイベント」「多様な仕事」「人との出会い」などに魅力を感じているのではないだろうか。これらは基本的にお金を使う「消費」によって得られる刺激だ。

 企業などが市場調査を行いニーズに合わせて作ったものを、消費することで刺激を得ている。このような人たちは商品・サービスを消費することで刺激を感じられる受動的な人たちと言える。「人との出会い」に刺激を感じる人も魅力的な人から刺激をもらおうという受動的な観点に立っている。
                 

地方にクリエイターが増えている理由


 逆に地方に刺激を感じている人は「豊かな自然」「魅力的な食材」「使い放題の遊休施設」「地域コミュニティー」などをうまく活用しながら新しい仕事を生み出したり、遊びを作ったり、イベントやパーティーを開催して楽しんでいる。

 無人島で釣った魚をBBQで食べて、キャンプをするというレジャーは東京では相当ハードルが高いが、日南だと気軽にしかも安価で楽しめる。これまで手付かずだった多くの資源をITやデザインなどを活用しながら、事業に仕立て上げることに刺激を感じているひとも多い。実際、地域資源を活かした事業である「ローカルベンチャー」が全国各地で生まれている。

 つまり、東京のほうが地方よりも刺激的だ!と感じている人は、誰かがあなたに楽しんでもらえるために作った商品・サービスを意のままに消費をして「これは刺激的だー!」と感じているだけなのかもしれない。

 感じていると言うより「感じされられている」という方が的確だろう。カラオケの最新機器も、おしゃれなカフェも、インスタ映えするナイトプールもすべてマーケティングされている。設計された商品サービスを消費させられ続けることに刺激を感じられる人は東京の方が向いているかもしれない。

 対して、地方に刺激を感じる人は新しい商品やサービスや価値観を創ることに刺激を感じるクリエイティビティに溢れた人の可能性が高い。地方に眠る手付かずのアセットを活かし、新しいモノ、サービス、概念を創り上げていく。誰かがマーケティングし設計された商品サービスを消費することでは刺激を感じず、自らが何かを創り出すことに刺激を感じるのだ。

 近年、デザイナーや建築士、作家などのいわゆるクリエイターと呼ばれる人たちが、東京と地方の2拠点居住を始めたり、完全に地方移住したりする事例が出ているがそれも好例だろう。定期的に東京でインプットはするものの、普段の生活や仕事や遊びは地方で、というケースは多い。地方の方が生み出す余地は圧倒的に残っているのだ。

 もちろん、ほとんどの人はものを消費することでの刺激を好む。何かを創り出すことに刺激を感じられる人は少数派だろう。それが東京の人口集中につながっているのかもしれない。しかし、世の中には東京よりも地方に刺激を感じる人がいるし、そういう人から活躍を地方の場にもとめて移住しているのかもしれない。

 消費に刺激を感じる人は東京に、創造に刺激を感じる人は地方に。もちろん明確には別れないが、今後の傾向としてはそのような流れになるのではないだろうか。
(文=田鹿倫基・日南市マーケティング専門官)
田鹿倫基
田鹿倫基 Tajika Tomoaki 日南市 マーケティング専門官
刺激を消費で得られる人と創造で得られる人がいます。そして東京にいれば情報が集まると感じている人と、どこにいても情報は自分で取りに行く工夫をし、実際に集まってくる人がいます。 得れる刺激も情報も居る場所ではなく、意識と人に付随するんだと思います。

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