「地方が悪いのではなく、技術革新が速すぎる」(リクルート新規事業開発室長)

麻生要一氏インタビュー「大切なのは、独り善がりにならないこと」

 2016年に地方創生関連の取り組みを本格始動させたリクルートホールディングス。地方の自治体や大学などとの連携を通じ、新たな価値の創出を図っている。推進役の一人である麻生要一リクルートホールディングス新規事業開発室長に、現状と展望を聞いた。

 -麻生さんのところはどんなスタンスで地方創生に携わっているのですか。 
 「まず新規事業開発として地方創生に取り組むことが、我々のベースになっています。リクルートにとって、新規事業の創造は日々の事業活動の一部です。いろいろな領域で課題解決を生む仕組みを持っています」

 「昨今取り組んでいるのが、外部との連携で革新を創り出す『オープンイノベーション』です。地方創生に向けた新規事業開発の取り組みでも、このオープンイノベーションを重要なテーマにしています。地域の課題を解決したい地方自治体、地元企業、大学などと、事業創造が得意な当社が組む形です」

 -外部連携を重視する理由は何ですか。
 「今は『VUCA(Volatility=変動、Uncertainty=不確実、Complexity=複雑、Ambiguity=曖昧)』の時代です。勝ち残るには、すごい速度でイノベーションを起こし続ける必要があります。1企業が単独で対応するのは困難です」

 「最近は特に、リクルートが今まで直接交わったことの少ない相手とより接点を持つことに力を注いでいます。スタートアップ企業と協働した新規事業開発プログラム「MEET SPAAC」が、その1例です」

 -地方では具体的にどんな取り組みを進めているのですか。 
 「2016年に高知県、長野県塩尻市の2自治体と連携協定を締結しました。両自治体において我々と協力する担当者や部署が設けられ、協業が始まっています。自治体から資金的支援は受けていません。あくまで自治体を媒介にして、地域に課題解決をもたらすことが狙いです」

 「塩尻市との連携をきっかけに、この8月1日には信州大学とも連携協定を締結しました。地元の活性化をテーマに、行政、大学、地元企業が関わる大きなエコシステム(複数の組織が結びつき新しい価値の創造をするための仕組み)ができあがりつつあります」

 「塩尻市、信州大学とは、オンラインで薬局に服薬・健康の相談ができる新サービス『すこやくトーク』で協力することが既に決まっています。行政にとっては住民の健康サポートというメリットがあり、大学では企業活動が地域にどう貢献するかといった研究に生かすことができます。一方、我々としては薬局とのつながりを作り、ヒアリングや実証実験することなどができます」

 「営利企業である我々は経済が回る仕組みを作らないといけません。つまり、人々がお金を払ってくれるような価値を創り出すことが重要です」

 「人々が解決を求めている課題は全国にたくさんあります。特定地域で作ったサービスを全国展開して収益を作るといったモデルも、日本中を市場に位置付けている我々なら実現可能です」

 -自治体や大学との協業について手応えはありますか。 
「すこやくトークは1例に過ぎません。水面下では他のプロジェクトも動いており、今後に期待が持てます。また、事業を創る過程でも、多くのメリットを実感しています」

 「地方で何かやりたい時に東京の企業として地元企業にアプローチしても、キーマンにたどり着けずうまくいかないことがあると思います。自治体の方々はその点、地元を本当に良く知っています。自治体を通すことで円滑につながることができています」

 -逆に課題はどんな点でしょう。
 「技術の最先端と地方の人たちとの距離がまだあるように感じています。地方が悪いのではなく、技術革新が速すぎるのです。パソコンやタブレットをほとんど使わない人も地方にはいます。そういう状況下だと、例えばIoT(モノのインターネット)端末を活用するにしても、実装するのは簡単ではありません」

 -ギャップを埋めるのがリクルートの役目でしょうか。
 「そう思います。大切なのは、独り善がりにならないことです。単に先端技術を持ち込んで売ろうとしても、失敗します。地域を“点”ではなく“面”ととらえて協力体制を築き、『一緒に何かを成し遂げる』という心持ちで事業を推進していきたいと思います。そういう動きを作りながら時間をかけて先端技術を採り入れていくのが、良いのではないでしょうか」

【略歴】
 麻生要一(あそう・よういち)2006年、株式会社リクルートへ新卒入社。入社2年目に、社内新規事業提案制度「New RING」で準グランプリを獲得。2010年に株式会社ニジボックスを設立、2013年より代表取締役社長兼CEOとして約4年間ITベンチャー企業の経営を行う。2015年2月から、スタートアップ企業、研究者やイノベーターの活動を無償で支援する「TECH LAB PAAK」の所長も兼任する。現在は、2015年より着任した「新規事業開発室」(旧Media Technology Lab.)室長として、複数の新規事業の発掘・投資・育成を一手に担当。


「大きなエコシステムができあがりつつあります」(麻生さん)

明 豊

明 豊
08月26日
この記事のファシリテーター

リクルートの新規事業開発プログラムで年間提案される案件は700ぐらいあるという。オープンイノベーションの文脈では地方だけでなく、サイバーエージェントやソニーなどともコラボ実績が出はじめている。大企業がそれぞれの得意分野で、関係の深い地方に対してサポートを行う、このような積み重ねが、地方創生の集合を生み、やがてそれらが相互に協力し合う、そんな形が出来上がるとよい。ちなみに麻生さん自身は東京生まれ、東京育ち。それもまたよし。

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古川 英光
古川 英光
08月28日
麻生要一さんは優しい言い方をされていますが、真剣に考えなくてはならないのは地方では技術の取り込みが遅すぎることです。卑近な例ですが、地方に暮らしていて、防犯組合の集金(1戸150円)を頼まれて、シニアの人とは固定電話ベースでしか連絡の取りようが無いとか、もう絶望的ですね。各戸を回って在宅を確認してくれという意図は頭では分かるのですが、時間が無駄過ぎて私のメリットがなかなか見出せません。
  

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