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医療保険「支払い意思額」の調査方法を巡り紛糾

中医協で議論「良い質問の設定とは思えない」
医療保険「支払い意思額」の調査方法を巡り紛糾

中医協の費用対効果評価専門部会では激しい議論が続いている

 医薬品や医療機器の費用対効果評価をめぐり、議論が紛糾している。厚生労働省は費用対効果評価に用いられる「支払い意思額」の調査手法について案を示したものの、中央社会保険医療協議会(中医協、厚労相の諮問機関)委員からは異論が続出。厚労省は調査案の見直しを余儀なくされ、関係業界からの意見聴取も延期する事態となった。政府は2018年度に費用対効果評価を制度化したい考えだが、先行きは不透明だ。

 「良い質問の設定とは思えない」「バイアスがかかるから、こういう調査方法は良くないのでは」―。7月26日に開かれた中医協費用対効果評価専門部会では、支払い意思額の調査手法の案について、委員からこうした不安の声が相次いだ。

 調査の案は、無作為に抽出された3000人以上の一般人へ面接を実施し、完全な健康状態で1年間生存することを可能にする新しい治療法に対して公的医療保険からいくらまで支払えるかを聞くというものだ。

 厚労省は調査結果を材料に医薬品や医療機器の費用対効果評価を行い、価格が効果に見合わない品目については価格を調整する方針。13品目が試行的導入時の評価対象に選ばれている。

 しかし、医療保険制度に詳しくない一般人が的確に回答できるかは未知数だ。「私も聞かれたとしたら困ると思う」(準大手製薬首脳)など、有識者からも困惑の声が漏れる。

 7月26日の専門部会では関係業界からの意見聴取が行われる予定だったが、それ以前の段階でも中医協委員から疑問が噴出しており、厚労省は意見聴取を先送りした。費用対効果評価のあり方に関する中間的なとりまとめを今夏に行うという当初の計画は、遅れる公算が大きい。

 議論の紛糾を受け、厚労省は8月9日の中医協費用対効果評価専門部会で今後の方向性に言及。13品目が対象となる試行的導入においては、評価基準の設定時に、過去に国内で行われた支払い意思額の研究結果や、諸外国の評価基準を活用することを提案した。

 費用対効果の評価対象とされた医療技術は、患者の健康状態を改善するために必要な追加費用である増分費用効果比(ICER)の値を用いて価格調整を行う。

 この際、ICERの値の“評価の基準”となる値を設定する必要がある。3月時点で基準値は支払い意思額を基本とする方針が掲げられていた。

 だが13品目については18年度の薬価改定時に価格を見直す必要があるため、厚労省は新たに行う支払い意思額の調査結果を活用することは時間的に難しいと判断した。一方で、新たな調査の手法は引き続き検討し、本格導入の際に活用する考えだ。

 しかしこれについても中医協委員からは、「試行的導入の値と、支払い意思額調査の結果が大きく異なった場合は混乱するのでは」(幸野庄司健康保険組合連合会理事)といった懸念が出され

 た。厚労省は「異なった場合は、この場でご審議頂くのが筋。違う可能性があるから試行をやめるのか、という話になる(ことは好ましくない)」(迫井正深保険局医療課長)などとして理解を求め、提案は大筋で了承された。

 23日にも費用対効果評価専門部会が開催される。関係者との合意形成に向けた正念場が続くことになる。
                  

(文=斎藤弘和)
日刊工業新聞2017年8月22日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
厚労省は18年度診療報酬改定時に費用対効果評価を制度化するという目標を掲げてきた。だが試行的導入と本格導入の議論を切り分けて短期間に同時並行で進めなければならない状況に追い込まれており、制度化へのかじ取りは難しさを増した。また、薬価引き下げを懸念する製薬業界からの反発が強まる可能性もある。 (日刊工業新聞第ニ産業部・斎藤弘和)

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