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東大、若手研究者300人 「任期なし教員」に転換

 東京大学は2021年度までに、任期付き雇用の若手研究者300人を任期なし雇用の教員に転換する。外部資金獲得による間接経費などを使い、国の運営費交付金に頼らない雇用とする。16年度の東大の40歳未満の任期なし教員数は383人。若手の雇用安定を財源多様化で実現することで、大学の研究開発力を一層強化する。

 若手研究者には「任期なしの教員」「任期付きの教員」「任期付きの研究員」がある。このうち「任期付き」の2種類で優秀な若手が、任期なし雇用の教員に転換する。

 任期なし雇用への転換の財源として、理系を中心とした部局は外部資金獲得に伴う間接経費収入や運営費を活用する。本部は産学連携に関わる収入、規制緩和による土地・資金運用などで確保する。

 東大は16年度に任期なし雇用への転換を部局財源で行う場合に年間300万円を3年間、本部が支援する制度を始めた。さらに独自の「東京大学卓越研究員制度」で部局が「任期なしかそれに準ずる扱いにする」と決めた中から対象者を選定。本部が1人当たり同300万円を2年間、支援する。この結果、17年度の任期なし雇用は前年度比約90人増えた。

 国立大学の任期なし雇用の教員は通常、運営費交付金で人数が決まる。交付金削減で定年退職教員の後を補充しにくく、任期なし教員が減る傾向にある。

 同時に競争的資金のプロジェクトが増え、任期付き雇用が研究型大学で増加。東大の教員のうち任期付き雇用が占める割合は06年度が4割強だったが、12年度は6割超だった。 任期付き雇用は競争意識を持たせる利点がある。一方でイノベーションの創出やノーベル賞級の研究につながる基礎的研究は生まれにくい面もあった。
     
日刊工業新聞2017年8月15日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
若手研究者の不安定な雇用の問題をどう解決するか。その答えの一つを東大が提示した。 国立大自らの努力による財源捻出は、国は規制緩和で可能になりつつある。東大と同様に研究型の大規模大学なら、また国立大学の3類型で「世界」を選んだ大学なら、今回のような仕組みは大いに検討の価値があるだろう。 ノーベル賞受賞の大隅良典東工大栄誉教授の研究の端緒は、東大で生まれ年月をかけて大きく育った。 当時は華々しい業績を上げていなくても、職を失う不安がない形での雇用だったから、じっくり基礎の研究に取り組むことができたのは間違いない。 「基礎研究が大事だ」とだれもがいう。だが、国の財政が厳しい中で、国民の理解を得て、基礎研究の予算や人件費を、あらゆる国立大学につぎ込むことは難しい。 すべきこと、したいことは、自分たちで手立てを考える。その意識を国立大大学にも求められる時代に、なってきているといえるだろう。

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